不整脈グループ

不整脈グループ


 当グループの研究領域は,不整脈学全般を対象としますが,近年は特に心房細動領域で多くの実績があります。心房細動は不整脈外来では最も診療する頻度が高い疾患ですが,本邦における有病者数はさらに増加を続けており,やがて100万人に達するといわれます。先代の井上教授は,J-Rhythm Registryをはじめとする多数の全国規模の多施設共同研究を実施され,本邦における心房細動治療の実態と課題を明らかにされました。当科も井上教授の下で,それらの調査研究に参加をし,その成果に貢献してきました。また現在でも,当科で診療中の心房細動患者様の全例登録調査を継続しており,日々の診療からの課題や疑問の抽出や,データの解析による仮説の検証の取り組みを継続しています。心房細動の最も深刻な合併症である脳梗塞の予防に関しては,直接トロンビン阻害薬direct thrombin inhibitorや,第Ⅹa因子阻害薬factor Xa inhibitorなどの新しい薬剤の有効性と安全性を明らかにするために,当科における上記の取り組みを継続するとともに,多数の外部の治験や調査に参加して診療データを提供しています。

図1

図2


 心房細動に対する抗不整脈薬の治療は,その頻度や持続を軽減して自覚症状を改善することが出来ますが,その効果は決して十分ではなく心室催不整脈作用を含む副作用や生命予後の悪化の危険さえも伴います。我々は臨床研究と基礎研究の両面から,心房細動の薬物治療の向上と,新たな治療法の開発を目指した取り組みを継続しています。抗不整脈薬の領域では,心房細動治療におけるベプリジルbepridilの有用性(単独またはアプリンジンaprindineとの併用による)に早くから注目し,臨床研究でその効果を証明するとともに,実験モデルを用いた基礎研究によってその有効性の機序を解明してきました。また,心房細動の発症進展機序の解明と,その抑制手段の開発を目指した基礎研究によって,抗不整脈薬以外の薬剤による治療の可能性についても検討を継続しており,レニン・アンジオテンシン系renin-angiotensin system,キサンチンオキシダーゼxanthine oxidase経路,そしてトランスフォーミング増殖因子transforming growth factor (TGF) -β1経路(図1と図2;Nakatani Y, et al. J Am Coll Cardiol. 2013;61:582-588.)などの薬理学的な抑制によって,心房細動の発症や進展自体を予防できる可能性を見出しました。これらの研究の成果は,全て国内外の学会で発表したのちに,英文医学雑誌に掲載されています。



図3

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 近年の心房細動治療では,カテーテルアブレーションの進歩が著しく,当科でも積極的な治療をおこなっています。心房細動アブレーションでは,肺静脈隔離術pulmonary vein isolationが臨床的に確立され,発作性心房細動では良好な急性期成功率が得られています。しかし,持続性心房細動での成績はまだ十分ではなく,追加的な焼灼手技が必要となりますが,その方法論はまだ確立されていません。我々は心房細動アブレーション手技の臨床成績を検討するのと同時に,様々な心房細動モデルにおいて,肺静脈隔離術,左房天蓋部焼灼left atrial roof ablation(図3と図4;Nishida K, et al. J Am Coll Cardiol. 2010;56:1728-1736.),そして心房自律神経節焼灼ganglion plexus ablationなどの焼灼手技の効果を比較検討し,その機序を解明してきました。これらの知見に基づき,心房細動アブレーションの,さらなる治療技術と成績の向上に取り組んでいます。

 心房細動以外では,県内全域の医療機関から紹介される,QT延長症候群long QT syndrome (LQTS),ブルガダ症候群Brugada syndromeを含む特発性心室細動,不整脈原性右室心筋症arrhythmogenic right ventricular cardiomyopathy (ARVC),カテコラミン誘発多性形心室頻拍catecholaminergic polymorphic ventricular tachycardia (CPVT) などの,稀な遺伝性不整脈疾患の患者様を対象として,病態の解明や治療技術の向上を目指した研究を継続しています。従来からの心電図指標や自律神経機能の解析に加えて,近年では本学の法医学教室と共同で,遺伝子解析による原因遺伝子変異の同定,同定された変異遺伝子を導入した細胞に発現する異常な心筋イオンチャネルの機能解析,さらに遺伝子変異を有する患者様の血液から作成した人工多能性幹細胞induced pluripotent stem (iPS) cellsを用いた薬剤のスクリーニングなどの,新たな分野で研究を進めており,疾患機序の解明を目指すとともに,それらの検査結果に基づき個々の患者様にあわせたテイラーメイドの治療を提供する事で,研究の成果を日々の診療にフィードバックしています。


 国内外への研究留学も積極的に進めており,近年においては,海外では米国ロサンゼルスのシダーズ・サイナイ医療センターCedars-Sinai Medical Center(林),カナダのモントリオール心臓研究所Montreal Heart Institute(阪部,西田),ドイツのゲッティンゲン大学University of Gottingen(常田),国内では心臓血管研究所(常田),国立循環器病研究センター(片岡)などへの留学によって,新たな知識や技術の吸収を促進しています。興味や関心のある学生さんや研修医の先生方は,下記のメールアドレスまでご連絡下さい。

文責:西田邦洋(にしだ くにひろ)
knishida@med.u-toyama.ac.jp







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