心不全グループ

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図1
 私たちは慢性心不全の薬物・非薬物治療を交感神経活動への影響という長期予後を見据えた視点から評価し、個々の慢性心不全患者における最適な治療とは何であるか、心不全入院の予防が可能かどうか研究してきた。 交感神経活動の評価法には様々な方法があるが、私たちは直接的評価法である筋交感神経活動(MSNA)を記録し、交感神経活動亢進という神経活動上の現象を確認しながら、短時間あるいは長時間で起こる変化をとらえている。

図1は健常者と心不全患者より記録したMSNA(積分)波形、血圧、呼吸の同時記録である。健常者では4,5拍に1回程度の神経活動が見られるのに対し、重症心不全患者では全心拍に同期した神経活動が観察される。 このように交感神経活動の著しい亢進を可視化することができる。 



1, 心不全における交感神経活動活性化機序について
図2
 慢性心不全患者では交感神経活動が亢進しており、その指標である血漿ノルエピネフリンレベルや筋交感神経活動(MSNA)のレベルいずれも独立した予後予測因子である。交感神経活動の亢進機序については数多くの研究報告がある。心不全では心臓のポンプ機能低下や弁膜の異常により心臓から全身への拍出量が減少し動脈圧低下や圧上昇速度が低下するために圧受容体反射を介して交感神経活動の亢進が惹起される。しかし慢性心不全における交感神経活動亢進の持続にはそれに加え多彩な機序が関係すると言われている。以前我々は左室高頻度ペーシングによる心不全モデルにおいて、血行動態と自律神経活動の変容過程を観察した(Ishise, Asanoi, Joho, et al. J Apply Physiol 1998)。心不全モデルはペーシング早期からdP/dtが急激に低下するがその部分に連動して心拍変動の高周波成分、すなわち呼吸性の迷走神経活動の減弱が起こる(図2)。


一方、血漿ノルアドレナリン濃度でみた交感神経活動の活性化はdP/dtの変化とは一致せず、むしろ左室拡張末期圧の上昇に連動していることがわかる。事実、心機能・心拍出量低下、血圧低下の代償機転とは異なる交感神経活性化の機序が存在する。中枢からの交感神経活動に影響する因子には腎臓・肺を介する機序、骨格筋を介する機序(筋代謝受容器)、さらに睡眠時無呼吸による交感神経活動の亢進機序はいわば興奮性の刺激(excitatory stimuli)と称され、その一部はpara ventricular nucleusにおける中枢性の交感神経活動のセットポイントの上昇を介しホメオスターシスの維持に必要以上の交感神経反応を起こす。

最近、我々は拘束性呼吸機能障害が心不全における交感神経活動の亢進と密接に関係することを示した(Joho et al. J Card fail 2017)。この結果は肺を介する交感神経活動活性化機序について補強する意味を持ち、Journal of Cardiac failure(アメリカ心不全学会誌)のeditorialでも取り上げられた。 以上のように、心不全の進展に伴い、不全心を取り巻く諸臓器との神経体液性調節的な関わりの中で交感神経系は徐々に活性化され、心不全をさらに悪化させる悪循環を形成すると考えられる。  



2, 交感神経活動とβ遮断薬の用量の関係を考える
 左室駆出率(LVEF)の低下した慢性心不全患者を対象とした臨床試験においてβ遮断薬はLVEFを改善するとともに心不全再入院と死亡率を減少させ、さらにその効果は用量依存性を示した。また先述のように慢性心不全患者では交感神経活動が亢進しており、その指標である血漿ノルエピネフリンレベルや筋交感神経活動(MSNA)のレベルいずれも独立した予後予測因子である。しかし心筋への交感神経活動の影響は、β遮断薬の用量、あるいは中枢からの交感神経のドライブの強さそれぞれ単独で決まるものではなく、両方の影響をうけるはずである。しかしこれまでに中枢からの交感神経活動のドライブとβ遮断薬の用量の両者を同時に考慮した検討はない。  
 

図3
最近、我々は筋交感神経活動(MSNA)から節後線維の交感神経活動を直接評価し、MSNAとβ遮断薬の用量が①LVEFの変化量、②心不全入院と心血管死亡の複合エンドポイントからみた予後 それぞれに対する影響を133名の慢性心不全患者(LVEF<0.45において検討した (Joho, et al. Circ J 2016)。 COX比例ハザードモデルによる多変量解析の結果、MSNAとβ遮断薬用量(カルベジロール換算量)はいずれも独立した予測因子であった。MSNA、β遮断薬用量の中央値によりそれぞれ2群に分けたとき、高MSNA群ではβ遮断薬用量が独立した予後予測因子であったのに対し、低MSNA群ではβ遮断薬の用量は単変量解析でも有意とはならなかった。さらに低MSNA群ではβ遮断薬の用量の高低に関わらず予後に差はなかったが、高MSNA群では低用量のβ遮断薬のイベント発生率が有意に高かった(図3)。


図4
また6-12ヵ月後に心エコーを再度評価しえた104名において、高MSNA群でβ遮断薬の用量の低い患者のみLVEFの改善が不良であった(図4)。

以上より、高用量β遮断薬投与の予後へのインパクトはMSNAのレベルで異なり、MSNA亢進例で明確であることが示唆された。



図5
 これを分かりやすく解説したのが図5である。MSNAは上流からの刺激であり、『雨』に例えることができる。一方β遮断薬は交感神経刺激から身を守る『傘』に例えることができる。雨がさほど降っていないとき(交感神経が亢進していない場合)小さい傘で事足りるが、雨が強い場合(交感神経が亢進している場合)大きな傘でないと雨に打たれてしまうだろう。すなわち交感神経活動が亢進しているときこそ大きい傘を使うべきということを意味している。しかし、MSNAは日常的に評価できないことから、MSNAの亢進している患者群を選別する指標を考案することが急務である。



3, 心不全に対するASVによる呼吸性交感神経制御
交感神経活動を抑制するβ遮断薬は近年の心不全薬物療法において不可欠な存在であるが、β遮断薬を含めた標準的治療でも体動時の息切れなどの自覚症状や心機能が改善しない患者は少なくない。心不全患者でよく観察される呼吸のゆらぎは循環時間の延長と炭酸ガス化学感受性の亢進のため惹起される。炭酸ガス化学感受性の亢進は交感神経活動との関連が示唆される一方、呼吸のゆらぎ自体は交感神経活動に影響する。  呼吸補助療法として慢性心不全患者を中心に臨床で使用されているadaptive servo ventilation (ASV)は、治療機器が患者の呼吸パターンを逐次モニタリングし、一回換気量をほぼ一様にすることができる。

私たちはこれまでASVに関する以下の点を解明してきた。

(1)ASVによる呼吸正常化に伴い、慢性心不全患者の交感神経活動が抑制される(Harada, Joho, et al. Auton Neurosci 2011)。
(2)ASV夜間長期使用による呼吸の改善効果が心機能の改善・交感神経活動の抑制と関係する(Joho, et al. J Card Fail 2012)。
(3)呼吸の改善効果は運動時周期性呼吸、換気応答の改善と関連する(Joho, et al. Int J Cardiol ME 2013)。
(4)ASVの交感神経活動抑制効果はCPAPでは観察できない(ASVのサーボベンチレーションの機能が交感神経活動改善と関連している)(Ushijima, Joho, et al. Circ J 2014)。

以上の結果は、ASVが慢性心不全患者の中でも特に呼吸のゆらぎが顕著な患者において有用であることを示唆している。 

以上、β遮断薬とASV療法は交感神経系に異なるレベルで作用し、心不全病態の改善に効果的に働く可能性がある。上流からの交感神経のドライブの強さを念頭に置き、それに見合うβ遮断薬の用量設定と上流への介入を行うことにより、重症心不全を改善させる糸口になると考える。



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