不整脈に対するカテーテルアブレーション

不整脈に対するカテーテルアブレーションのご紹介


動悸を感じたら・・・


皆さん誰でも運動をした時やビックリした時、緊張した時、お酒を飲んだ時などに心臓が「ドキドキ」するのを経験したことがあるかと思います。安静時の心拍数は通常60~80/分程度ですが、運動した時などには100回/分以上に増えるため、普段は気になることのない心臓の鼓動を「動悸」として感じてしまいます。これは生理的な現象であり病気の心配は全くありません。このように生理的に心拍数が増える場合は、“だんだん”脈が速くなっていって“だんだん”元に戻っていくパターンをとることがほとんどです。これとは別に、“突然”脈が速くなってドキドキと激しい動悸を感じ、“突然ピタッと”ウソのように動悸がおさまるような場合があり、これは「不整脈」と呼ばれる病気による動悸であることがほとんどです。


不整脈とは・・・


「不整脈」とは脈が「不整」になると書きますので、読んで字の如く“脈が乱れてしまう”ことです。脈が乱れてしまう病気は全て不整脈と表現され、不整脈にはさまざまな種類があります。 ここで、不整脈を理解するために“不整ではない”正常な脈とはどのようなものかについてお話しします(注 分かりやすいように一部実際とは異なる表現を使っています)。 みなさん人生で一度は受けたことがある検査のひとつに「心電図」があるかと思います。あの検査には「電気」という単語が入っていますが、なぜそのような単語が入っているかとか言うと、我々の心臓は「電気」をエネルギー源として、24時間365日絶え間なく動き続けているからです。



図1にありますように右心房の上の方に「洞結節」と呼ばれる場所があり、それが心臓を動かすための大事な“スイッチ”です。このスイッチが通常では1分間に60~80回自動的に入ることで、ここから心臓を動かすための大事な電気信号が流れ出します。この電気信号は「心房」をくまなく流れた後に、心臓の中央にある“変電所”(これを房室結節と呼びます)を経由して、さらに心臓の下のお部屋である「心室」の隅々まで流れてゆき、その電気信号によってわれわれの心臓は動いています。運動した時やお酒を飲んだ後には、スイッチの入る回数が100回/分以上に増えるので、「ドキドキ」と動悸を感じてしまいます。 この一連の「電気の流れ」を医学用語では刺激伝導系と呼び、これら「電気の流れ」がおかしくなることで「不整脈」になってしまいます。





不整脈かなと思ったら・・・


「胸が急にドキドキする」、「脈が飛ぶ・抜ける」、「脈が一瞬分からなくなる」などと不整脈は様々な症状をもたらします。また、「不整脈」と一言でいってもたくさん種類があるため、どの不整脈を原因として動悸を感じているか診断する必要があります。 不整脈かな?と思ったら、まずはご自分の脈をとってみて一分間の心拍数を数えてみましょう(10秒間数えて6倍して1分間としても結構です)。発作時の心拍数を教えて頂くことでおおよその不整脈の見当がつきます。さらに診断を確実にするには“発作時”、つまり「ドキドキ」している時の心電図をとることです。しかし、現実には病院にたどり着く前に動悸が治まってしまって、心電図をとるころには全く異常がないよという方がほとんどかと思います。そのような場合、「ホルター心電図」と呼ばれる24時間記録する心電図など各種検査をすることで、なんとか動悸の原因を探る努力が必要となります。


不整脈と言われたら・・・


“不整脈”と聞くと、「心臓が止まってしまうのではないか?」、「このまま倒れてしまうのではないか?」、「放っておいたら大変なことになってしまうのではないか?」などと思ってしまうかもしれません。確かにすぐに治療が必要な危険な不整脈もありますが、むしろそのような不整脈は稀です。しかも、不整脈は一様に治療が必要というわけではなく、治療せずに放置して構わない不整脈もあります。 不整脈に対する治療としてまず思い浮かぶものに「薬物治療」があるかと思います。薬の飲み方も2パターンあり、“発作が出てからなんとか発作を止めるために内服する”頓用の飲み方と、“そもそも発作が起きてほしくないので定期的に内服する”定期内服のパターンです。いずれの飲み方でも残念ながら薬物治療では不整脈を完治させることはできません。つまり薬物治療はなるべく発作が起きにくいように抑え込んでいるだけであり、どれだけ真面目に薬を飲んでいてもいつかは発作が出てしまう時があります。しかも、薬にもたくさん種類があるため、同じ不整脈の病名であっても効く方もいれば全く効かない方もいて、どの薬が自分に合うのか探す必要があります。一方で、不整脈を根本から完全に治してしまう“根治療法”として高周波カテーテルアブレーションという方法があります。カテーテル治療が功を奏した場合には、薬に頼らずとも不整脈の煩わしさから解放されることになります。


不整脈のカテーテル治療とは・・・


不整脈のカテーテル治療は正式には「高周波カテーテルアブレーション」といいます。アブレーションとは焼灼を意味し、カテーテルアブレーションの目的は「不整脈の原因部位をカテーテルと呼ばれる治療道具で焼き、不整脈の原因を取り去る」ことです。当院ではEnSite® systemやCARTO® systemといった3Dマッピングシステムを併用することで効率よくアブレーションの手技を行っております(図2)。



カテーテル治療の適応となる不整脈には主に以下のようなものがあります。
注)よりよく理解するために‘不整脈とは・・・’の項目で「正常な脈」の状態について解説している部分を先にお読み下さい。


1. 発作性上室性頻拍
2. 心房細動
3. 心房粗動
4. 心房頻拍
5. 心室期外収縮・心室頻拍



1. 発作性上室性頻拍


発作性上室性頻拍では心拍数が突然140~200回/分と極端に増えてしまい、激しい動悸や息切れといった自覚症状を感じることがあります。 先に述べたように心臓を動かすための大事な電気信号は、洞結節(スイッチ)から始まり、心房、房室結節(変電所)を経て心室まで到達しますが、この電気信号が逆流して心房に戻ってきてしまうことが根本的な原因です。逆流して心房に戻ってしまった電気信号は再び心室に流れ、またその電気信号が心房に戻るといった電気信号の「渦巻き」が出来てしまうわけです(これをリエントリーと呼びます)。どこで電気信号が逆流するかによって次の2つに分かれます。


① 房室回帰(リエントリー)性頻拍(図3)


生まれながらに「房室結節」以外に心房と心室をつなぐ余分な電気回路を持っており(余分な電気回路のことをKent束と呼び、Kent束を有する疾患のことをWPW症候群と呼びます)、そこを通って電気信号が心房に逆流してしまします。


② 房室結節回帰(リエントリー)性頻拍(図4)


心房と心室をつなぐ結び目にあたる「房室結節」付近で電気信号が逆流して心房に電気信号が戻ってしまします。


カテーテル治療では電気信号が逆流している箇所を探し、カテーテル先端の熱で焼灼して逆流出来ないようにすることで治します(厳密には実際と異なる表現が含まれていますが、理解しやすいようにあえてそのまま記載しています)。


2. 心房細動


◆ 心房細動とは
心房細動とは心臓の上の部屋である「心房」が痙攣し、小刻みに揺れるような状態にある不整脈のことです。発作が出たり治ったりを繰り返す状態を「発作性心房細動」といい、心房細動の初期段階と考えられます。このような発作を長年繰り返していると、四六時中心房細動が続くようになってしまい、このような状況を「慢性心房細動」といいます。 心房細動になると脈の間隔はバラバラになり、心拍数が異常に増える頻脈と呼ばれる状態になることがあり、動悸や息切れなどの自覚症状を感じることがあります。 また、心房細動では心房が痙攣しているだけで十分に収縮していないため、心房の中の血液の流れが悪くなり、血栓(血液の塊)を作ることがあります。血栓が血液の流れに乗って血管に詰まってしまった場合、脳梗塞をはじめとした全身の血栓塞栓症を発症する可能性があります。


◆ 心房細動の発症メカニズム
心房細動の発症メカニズムについて少し詳しく記載します(理解しやすいように記載しているため実際とは異なります)。先ほどから、洞結節は心臓を動かすための大事なスイッチとお話ししていますが、洞結節から出る電気信号を仮に家庭用電源の100ボルトとしましょう(例え話であり事実ではありません)。心房細動では左心房(左右2つに分かれている左側の心房)にある肺静脈と呼ばれる血管の中やその周辺に“100万ボルト”と家庭用電源よりはるかに高圧電流を流すスイッチがあり、そのスイッチが入ってしまうことで心房に100万ボルトの高圧電流が流れ、心房が感電することで痙攣してしまうようなイメージとすれば理解しやすいかと思います(図5)。



◆ 心房細動のカテーテルアブレーション
カテーテル治療ではこの100万ボルトのスイッチを含め、肺静脈の周囲をぐるっと焼くことで治療します(両側拡大肺静脈隔離術)。すなわち、焼いて「やけど」した部分は電気を通せない「絶縁体」の状態になりますので、仮に100万ボルトのスイッチが入ってしまっても、その高圧電流は「やけど」の部分でブロックされ、心房まで高圧電流が伝わらないようにするのです(図5、6)。




「持続性」心房細動では、「発作性」心房細動より病状が進んでしまっているため、原因は肺静脈とその周辺に限らず心房筋全体に拡がってしまっています。このため「両側拡大肺静脈隔離術」のみならず、心房筋にまでアブレーションの範囲を広げる必要があります。「持続性」になってからカテーテル治療を受けるより「発作性」の段階で受ける方がカテーテル治療の成功率が高いため、カテーテル治療を考えている場合はなるべく早い段階で受けるほうが望ましいでしょう。


◆ アブレーション治療技術の進歩(図7)

従来、カテーテル治療では「高周波エネルギー」を用いてアブレーションを行ってきましたが、短時間でより確実な治療を実現するため、2015年10月より「冷凍凝固アブレーション」が日本でも導入されました。これは心房細動の中でも「発作性心房細動」に対して行われるもので、従来、カテーテルで1点1点肺静脈の周囲をアブレーションしていたのに対し、バルーン状のカテーテルを肺静脈に挿入し、冷気ガスを送気することで標的部位を円周状に一括で冷却することで肺静脈隔離術を行います。バルーンカテーテルによる均一な一括冷凍焼灼により短時間で確実な心房細動治療が可能となることが期待されており、当院でも2016年4月からこの方法を導入しました。




3. 心房粗動


◆ 心房粗動とは
心房粗動は先ほど述べた心房細動と同様に心臓の上の部屋である「心房」が痙攣し、小刻みに揺れるような状態にある不整脈のことですが、心房細動とはその発症メカニズムが大きく異なります(後述)。 心房粗動になると心拍数が異常に増える頻脈と呼ばれる状態になることがあり、動悸や息切れなどの自覚症状を感じることがあります。 また、心房粗動では心房が痙攣しているだけで十分に収縮していないため、心房の中の血液の流れが悪くなり、血栓(血液の塊)を作ることがあります。血栓が血液の流れに乗って血管に詰まってしまった場合、脳梗塞をはじめとした全身の血栓塞栓症を発症する可能性があります。


◆ 心房粗動の発症メカニズムとカテーテルアブレーション
心房粗動には「通常型」と「非通常型」があり、「通常型」心房粗動は心臓を動かすための電気信号が三尖弁輪という右心房と右心室の連結部分の周りを延々と回り続けることで生じてしまいます(図8)。


三尖弁輪以外のところを回り続けている場合を「非通常型」心房粗動と呼びます。カテーテルアブレーションでは、電気信号が回り続けている電気回路の一部をカテーテル先端の熱で焼灼し、電気信号が回り続けられないようにします。


4. 心房頻拍


心房頻拍では心拍数が突然140~200回/分と極端に増えてしまい、激しい動悸や息切れといった自覚症状を感じることがあります。先ほど述べましたように、洞結節は心臓を動かすための大事なスイッチですが、洞結節からの電気信号ではなく、心房の異常な心筋細胞から極端に速い頻度で電気信号が発生してしまうことで起こります(図9)。




心房頻拍では、極端に速い頻度で電気信号を発生させている場所を探し、カテーテルで焼灼して治します。


5. 心室期外収縮・心室頻拍


期外収縮とは読んで時の如く、「期待」「外れ」の脈が出てしまうことです。先ほど述べましたように、洞結節は心臓を動かすための大事なスイッチですが、洞結節からの電気信号ではなく、心室の異常な心筋から勝手に電気信号が発生して脈が乱れてしまうことを心室期外収縮と呼びます。心室期外収縮が3回以上連続で出現することを心室頻拍と呼びます(図10)。




心室期外収縮では「脈が飛ぶ」、「脈が抜ける」、「心臓が一瞬止まった」などといった動悸症状を自覚することがあります。心室頻拍では動悸、めまい、ふらつきなどの自覚症状が出たり、発作の持続時間が長い場合や発作時の心拍数が極端に速い場合などには意識を失ってしまうこともあります。 心室期外収縮や心室頻拍ではこの「余分なスイッチ」をカテーテルで焼灼することで治 療します。
心室頻拍ではここで述べた以外にも発症メカニズムがありますが、難しい話となるため 割愛します。詳しくは主治医の先生にお尋ね下さい。


高周波カテーテルアブレーションの実際の流れ・・・(図11)


手術当日に左の腕に点滴を留置し、手術中・術後はトイレに行けないため手術直前から尿道カテーテルを留置します。不整脈の種類によって手術の内容は異なりますが、おおまかな手順は以下の通りです。


① 右足の付け根を局所麻酔し、大腿静脈や大腿動脈と呼ばれる血管に針を刺してカテーテルを合計3~4本血管内に挿入します(場合によっては鎖骨下静脈や内頚静脈も使用します)。
② 血管の中にカテーテルを進めてゆき、右心房を始めとした心臓各所にカテーテルを配置します。
③ カテーテルを使ってわざと不整脈を発生させたりすることで不整脈の発生部位を同定し、高周波通電により焼灼することで治療します。心房細動の場合は静脈麻酔による全身麻酔で眠った後、主な原因箇所である肺静脈の周囲をカテーテルで焼灼することにより治療します。
④ 術後は創部の安静が必要であり、標準的には6時間右足を曲げることは出来ません。6時間経過後は右足を曲げることが出来るようになり、手術翌日の朝には歩行可能となります。 病状により異なりますが、手術時間はおおむね2~4時間で入院期間は7日前後です。




高周波カテーテルアブレーションと合併症・・・
高周波カテーテルアブレーションでは、ごく稀ではありますが以下に記載するような合併症の報告があります。当院では不整脈を専門とする医師6名、看護師2名、臨床工学技士2名で治療チームを結成し、合併症が生じないよう細心の注意を払うとともに万が一に備えて万全の体制を整えています。


① 薬剤アレルギー
使用する薬剤により吐き気、呼吸困難、蕁麻疹、血圧低下(ショック)などのアレルギー症状や腎機能障害を起こす場合があります。

② 創部の内出血、血腫
カテーテル挿入部位付近に内出血による皮膚の「あざ」や、出血した血液の塊によるしこり(血腫)を作ることがありますが、おおよそ1ヶ月程度で消失します。

③ 血管損傷
カテーテルを血管内に通している時に血管を傷つけてしまうことがあります。また、カテーテルを挿入している大腿静脈と、その隣を走行する大腿動脈の血管同士が一部つながってしまう動静脈瘻や、血管の壁が脆弱化してこぶ状に膨らむ仮性動脈瘤を形成することがあります。

④ 気胸、血胸
鎖骨のすぐ裏側を走行する鎖骨下静脈からカテーテルを挿入する場合がありますが、その際に針が肺を傷つけてしまう可能性があります。

⑤ 塞栓症
カテーテルに血栓(血液の塊)が付着する、前から心臓内や血管にあった血栓が剥がれてしまう、焼灼部位に形成された血栓が剥がれてしまうなどといった理由で脳梗塞や心筋梗塞、肺梗塞といった血栓塞栓症を起こす可能性があります。また、カテーテル操作中に血液内に空気が混入してしまう場合があり、同様に塞栓症(空気塞栓)を発症してしまう場合があります。

⑥ 心筋穿孔、弁損傷
心臓内でカテーテルを操作している最中に心筋を傷つけたり、心臓の弁を傷つけてしまう場合があります。また、アブレーションによる熱で心筋に穴が開いてしまう場合があります。心筋に穴が開いてしまった場合、血液が漏れて心臓周囲にたまり、心臓を圧迫してしまします(心タンポナーデ)。この場合は、みぞおちから心臓に向けて針を刺し、たまった血液を抜く必要があります。

⑦ 房室ブロック
心臓内でのカテーテルの操作やアブレーションにより正常な脈の通り道(刺激伝導系)である房室結節が障害され、房室ブロックを生じることがあります。多くは一時的なものですが、場合によってはペースメーカーの植え込みを必要とする場合があります。
※ ⑧~⑩は心房細動に対するカテーテル治療の場合。

⑧ 肺静脈狭窄
肺静脈周囲をアブレーションしますが、アブレーションによるやけどが“ひきつれ”を起こし、肺静脈が細くなってしまう場合があります。

⑨ 神経損傷
心臓周囲には呼吸を助ける筋肉である横隔膜に分布する神経や、胃に分布する神経が走行しており、これらの神経がアブレーションの熱で障害される場合があります(横隔神経麻痺、胃蠕動運動低下)。

⑩左房食道瘻
左心房の後ろに食道が接しており、肺静脈周囲へのアブレーションの結果、左心房と食道に穴が開いて交通してしまい死亡した報告があります。

⑪ 感染
カテーテル挿入部から細菌が血液に侵入し、感染症を発症する場合があります。

⑫ 死亡
これら合併症による死亡が稀ではありますが報告されています。


おわりに・・・
不整脈は薬で抑え込む時代から、カテーテルアブレーションで根治を目指す時代に変わりつつあります。動悸でお困りの方、不安を感じていらっしゃる方、一度は不整脈専門医を受診してご相談されてはいかがでしょうか?動悸の原因を突き止め、個々の患者さんに最も適した治療方法をご提案致します。





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