慢性肺血栓塞栓性肺高血圧症に対するバルーン肺動脈形成術

慢性肺血栓塞栓性肺高血圧症に対するバルーン肺動脈形成術


末梢型の慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)に対するカテーテル治療法がバルーン肺動脈形成術(BPA)です。国内の基幹病院などで行われており、当院では2011年10月からBPAを開始しました。2020年7月までに85セッションの治療を行っており、北陸では最多の治療経験を有します。遠方の病院への転院が難しい患者様であっても、当院でこの治療が受けられます。



特徴

冠動脈疾患(狭心症や心筋梗塞)での狭窄とは異なり、CTEPHの病変部には膜様の器質化血栓が存在しています。BPAは、この膜様構造物をバルーンを使って血管の壁側に押しやり、血液の通り道を作る治療です。また狭心症のカテーテル治療とは異なり、治療部位にステントを置くことは原則ありません。この治療を行っても抗凝固療法は生涯必要です。


方法

まず肺動脈造影で、肺動脈の器質化血栓による狭窄を確認します。カテーテルを使用してガイドワイヤーと呼ばれる細いワイヤーを狭窄部の奥まで通過させます。血管内超音波などで血管径を確認したのち、バルーンで狭窄部を拡張し、血流を改善させます。


治療効果・合併症

当院での計85セッションの成績です。BPAを行うことで、肺動脈圧、肺血管抵抗が低下し、心拍出量が増加します。また運動耐容能が改善し、運動時換気応答(息切れ)も改善します。


【治療例】

・肺動脈造影

・肺血流シンチ


【治療効果】



【合併症】
周術期死亡 0件
人工呼吸器管理 0件
非侵襲的陽圧呼吸管理 7件


注意点

肺動脈は薄く、バルーン拡張しすぎると肺動脈を損傷する危険があります。肺動脈損傷の危険を減らすため治療が複数回になることにご理解ください。多くの場合、1回の入院で2回BPAを行い、計4回前後のBPAが必要になります。治療後、経過観察のため一晩は集中治療室(CCU)に入室していただきます。BPAに適さない病変もありますので、すべての肺動脈狭窄を治療できるとは限りません。またBPAの治療効果(肺高血圧の改善度、薬や酸素が中止できるか)は症例により異なります。

薬による肺高血圧治療の近年の進歩は目覚ましいものがありますが、CTEPHに対する薬の治療の効果は未だ十分なものではありません。薬物療法に加えBPAを行うことにより、患者様の生命予後・QOLが格段に改善します。肺動脈は薄く弱いため、拡張しすぎた場合には肺動脈を損傷し重篤な合併症を招く懸念があり、治療経験が豊富な施設での治療をお勧めします。 以前に肺塞栓症をされた患者様で、息切れの症状がとれない方はこの病気の可能性があります。この治療に興味を持たれた方は当科へ御相談ください。


担当
牛島 龍一(うしじま りゅういち) ryuushi (a) med.u-toyama.ac.jp
城宝 秀司(じょうほう しゅうじ) sjoho (a) med.u-toyama.ac.jp





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