富山大学 学術研究部医学系 神経精神医学講座

研究のご紹介Research

神経生理学・臨床薬理学

事象関連電位と精神疾患

 当施設の神経生理学的研究として、事象関連電位(Event-related potentials; ERPs)を中心に測定を行っています。ERPとは、脳波検査により測定される脳が内的あるいは外的な出来事を認知した時に発生する電位変化です。振幅や潜時を測定することで量的な評価が可能です。
 ERPsは、統合失調症などの精神疾患で異常がみられることがよく知られています。
当講座では主に統合失調症患者やその高危険群(at-risk mental state, ARMS)を対象に、代表的なERPであるP300とmismatch negativity(MMN)を測定しています。

図1.様々な事象関連電位

事象関連電位の測定方法

 当施設では聴覚刺激を用いてERPsを測定しています。主な装置は脳波計、脳波キャップ、ヘッドホン、音刺激発生装置、刺激提示用モニター、押しボタンであり(図2)、非侵襲的かつ簡便に測定できることが特徴です。

図2.事象関連電位測定に必要な装置

事象関連電位の測定風景

 当施設では、外来および病棟に脳波測定専用のシールドルームを備えており、いつでも事象関連電位を測定することが可能です。

図3.測定風景

神経生理チーム:主な研究成果

 これまで主に、P300およびMMNを用いた①薬理学的研究(対象薬物の投与前後での変化)、②統合失調症のバイオマーカ研究について様々な論文を発信してきました。以下に、代表的な研究の概略を紹介します。

①薬理学的研究:オランザピン投与によるP300の変化(Higuchi et al., 2008)

 統合失調症患者にオランザピンを投与したところ、P300振幅の増大が見られ、更にLORETA法(low resolution electromagnetic tomography)により解析したP300の発生源電流密度(CSD; current source density)が左上側頭回にて上昇しました。
 CSDの増加は、言語学習記憶課題(JVLT)の成績および陰性症状(SANS)の改善と有意な相関を示しました(図4)

図4.オランザピン投与によるP300の変化,臨床指標との相関

 最近はOmega-3不飽和脂肪酸の統合失調症に対する効果と精神病発症予防効果に注目し、介入研究を行いました(現在はエントリー中止)。

②統合失調症バイオマーカ研究:Duration MMN(dMMN)を用いた精神病発症予測(Higuchi et al., 2013, 2014, Tateno et al., in press)

 ARMS患者を対象に持続長MMN(duration MMN; dMMN)を測定し前方視的に観察したところ、統合失調症を発症した群(Converter; Conv)は、発症しなかった群(non-Converter; NonC)と比較してベースライン時点でのdMMN振幅が有意に低値でした。このことから、将来の精神病発症を予測できるマーカーである可能性が示唆されました(図5)。
 本研究の内容は評価され、第11回世界生物学的精神医学会で発表した際にはMedical TribuneのCongress Newsで取り上げられました。

http://site2.mtpro.jp/wfsbp/wfsbp2013/contents/

図5.ベースラインにおけるARMS(Conv, NonC)のdMMN

 更に、ベースライン(Time 1)と約2年間のフォロー時(Time 2)におけるdMMNを縦断的に測定したところ、後に精神病性障害の基準を満たした群(ARMS-P)は、満たさなかった群(ARMS-NP)と比較して振幅が次第に減少することがわかりました。このことから、dMMNの経時的な減少についても将来の精神病発症を予測できるマーカーである可能性が示唆されました(図6)。
 本研究の内容は第50回日本臨床神経生理学会で発表しBest Paper Awardを受賞しました。

 本研究グループの立野貴大医師(当時大学院3年)は、本研究内容などが高く評価され、富山大学大学院生命融合科学教育部 教育部長賞を受賞しました。

図6.dMMNの縦断的変化