富山大学 学術研究部医学系 神経精神医学講座

研究のご紹介Research

内観療法

内観法、内観療法とは

 内観法は、生活史における対人関係を振り返ることにより自己洞察を促す心理的技法です。浄土真宗の「身調べ」という精神修養法からヒントを得て、吉本伊信(1916~1988)によって開発されました。医療や学校教育、司法の矯正教育、職域のメンタルヘルスなど様々な分野で活用されています。
 精神科領域では、ストレス関連性の病態(不安や抑うつ症状)やアルコール依存症、心身症などによい適応があります。精神科での治療で用いられる場合には、内観療法と呼ばれます。

内観の技法

 内観法には日常生活で短時間行う「日常内観」と1週間連続で行う「集中内観」があります。以下の説明は、集中内観の方法です。
 二つ折りの屏風に仕切られた空間で楽な姿勢で座ってもらい、自分と関わりが深かった人物に対して「してもらったこと」「して返したこと」「迷惑をかけたこと」(これを内観三項目という)の具体的な出来事を回想してもらいます。時間や空間的な条件は以下のようにしています。

内観の進め方

近親者に対して、以下の3項目を回想する。

  1. 「お世話になったこと」
  2. 「お返しをしたこと」
  3. 「迷惑をかけたこと」

回想対象:母、父、配偶者など生活史上の関係の深い人。
回想期間:小学校低学年から、年代順に3年~5年区切り。
面  接:約1時間おき、1日10回、解釈を加えずに傾聴する。

内観を行う環境

場 所:屏風で仕切られた空間。
時 間:起床から就寝まで、1週間連続。
その他:携帯電話、雑誌などは持ち込まない。

主な研究成果

 これまで当教室は北陸内観研修所(富山市)と連携し、集中内観を行うことによる心理学的変化を調べてきました。その一部をご紹介します。

1) 共感性の変化

 多次元共感性尺度(Interpersonal Reactivity Index:IRI)を用いて、内観法前後の共感性の変化を調べました。集中内観後は、IRIの下位尺度である「視点取得」と「共感的配慮」の得点が有意に増加しました(図1)。

図1 内観法前後のIRIの変化
2) 職業性ストレスの変化

 社員研修を目的として内観を行なった24名を対象として、職業性ストレス(Job Content Questionnaire:JCQ)および抑うつ症状を調べました。内観後は、JCQにおける「職場の社会的支援」得点が有意に増加し、「仕事の要求度」得点と抑うつ症状の得点が有意に減少しました。また、心理社会的ストレスが強いhigh strain群が減少しました(図2)。

図2 内観法前後の「仕事の要求度」、「仕事のコントロール」得点の散布図
3) 死生観の変化

 集中内観を行った32名を対象として臨老式死生観尺度を用いて死生観の変化を検討しました。内観後は「死への恐怖・不安」の得点が有意に減少し、「死後の世界観」「人生における目的意識」「死への関心」「寿命感」の得点が有意に増加しました(図3)。

図3 内観法前後の臨老式死生観尺度の変化

文献

  1. 精神医学52:679-682,2010
  2. 臨床精神医学42:1215-1222,2013
  3. 臨床精神医学39:1355-1361,2010