富山大学 学術研究部医学系 神経精神医学講座

研究のご紹介Research

脳画像

脳画像グループの概略

 当グループは統合失調症をはじめとする精神疾患を対象に、主に磁気共鳴画像(magnetic resonance imaging, MRI)を用いて、病態解明および臨床応用を目指して研究を行っています。詳しくは総説をご参照ください。関心領域法による用手的な体積測定、voxel-based morphometry (VBM) 法による全脳レベルでの自動解析、FreeSurferを用いた脳表形態の評価などにより、高精度の解析を行っており、これまでに120編を超える英文原著論文(Am J Psychiatry, Arch Gen Psychiatry, Biol Psychiatry, Brain, Br J Psychiatry, Cereb Cortex, Mol Psychiatryほか)を公表しています。近年では特に精神病性障害のハイリスク状態(at-risk mental state, ARMS)を対象とした研究に力を入れています。また構造画像だけではなく、functional MRI、拡散テンソル画像による研究も行っています。国内外の研究施設と活発に連携しながら研究を進めていることも特徴です。

代表的な研究成果

1) 統合失調症と統合失調型障害の横断的比較

 一連の解析結果を図1に示します。両疾患群に共通の側頭葉領域(海馬、扁桃体、上側頭回など)の変化は脆弱性に関与し、統合失調症群でより顕著にみられる前頭葉領域の変化が精神病症状の顕在化に関連することが示唆されました。

図1. 統合失調症および統合失調型障害でみられる灰白質体積減少(健常群に対する効果量)
2) 統合失調症圏でみられる進行性脳形態変化

 縦断解析の結果、初発統合失調症群では上側頭回や島回などに年間数%程度の進行性灰白質減少がみられ、その程度は部位特異性に症状形成と関連していました (図2)。また適切な抗精神病薬治療が進行性変化を防ぐ方向に働くことが示唆されました。一方、統合失調型障害群や健常群には有意な灰白質の進行性減少を認めませんでした。
 メルボルン大との共同研究により、これらの進行性変化は精神病症状の顕在化前後でもっとも顕著であることが示されました(図2)。

図2. 精神病性障害の各病期にみられる側頭平面の縦断変化(T1はベースライン時点、T2は約2年後のフォロー撮像時点を表す)
3) 統合失調症の脳画像による補助診断

 脳画像データにより、統合失調症群と健常群は8割程度の精度で判別可能でした(図3)。比較的脳形態変化の乏しい初発患者であっても同様の高い判別率が得られました。

図3. 脳画像による統合失調症群と健常群の判別
4) ARMSを対象としたハイリスク研究

 国内外との共同研究などにより、統合失調症をはじめとする精神病性障害では、発症に先立ちある程度の脳形態変化を認め、これらの一部は将来の発症予測因子になりうることが示唆されました。これらの研究成果は社会的にも注目されています(図4)。

図4. 地元テレビ局による報道

多施設共同研究

 国内外の施設との共同研究は今後ますます活発化すると考えらえれます。当グループが参加している多施設共同研究や国内外の連携施設を以下に示します(一部抜粋)。

国際大規模多施設共同研究

 Enhancing Neuro Imaging Genetics through Meta-Analysis (ENIGMA)-Clinical High Risk Working Group, Asian Consortium on MRI studies in Psychosis (ACMP)

国内大規模多施設共同研究

 認知ゲノム共同研究機構 (Cognitive collaborative research organization, COCORO)

国際共同研究施設

 University of Melbourne (AUS), ORYGEN Research Centre (AUS), Monash University (AUS), Australian Catholic University (AUS), University of Sydney (AUS), Johns Hopkins University (USA), University of Oregon (USA), McGill University (Canada), Institute of Psychiatry (UK), University of Birmingham (UK), University of Manchester (UK), University of Cologne (Germany), Dalian Medical University (China), Vietnam Military Medical University (Vietnam)

国内共同研究施設

 東京大学, 国立精神・神経医療研究センター (NCNP), 東京都医学総合研究所, 慶應義塾大学, 東邦大学, 昭和大学, 筑波大学, 岩手医科大学, 東北大学, 名古屋大学, 藤田医科大学, 浜松医科大学, 金沢大学, 金沢医科大学, 大阪大学ほか