ガイダンス
Guidance

基礎医学の立場から

医療と基礎医学

 医学部の使命には、良い医療人を育てることに加えて、優れた医学研究を行って医学研究者を育てることがあります。私たちの健康や病気についてそのメカニズムを知り、課題を解決する方法をみつけ、病気の治療法や予防法を生み出していくためには医学研究が必要です。医療の進歩は、病に悩む人に大きな希望を与え、人類の幸福につながります。研究に重点を置いて取り組む医学を基礎医学と呼びます。
 富山大学の基礎医学系としての講座には、解剖学、統合神経科学、生化学、システム機能形態学、病理診断学、病態・病理学、免疫学、微生物学、分子医科薬理学、疫学・健康政策学、公衆衛生学、法医学、医学教育学、システム情動科学、分子神経科学、臨床心理学・認知神経科学、遺伝子発現制御学、行動生理学があり、それぞれの専門性を活かしたユニークな研究が行われています。また、連携して行われる研究も活発です。

新型コロナウイルスを感染させた
ハムスターの肺

基礎医学を支える環境

 基礎研究は、新しい発見へのチャレンジです。その発見が確かであることをより確実にするためには、より細かな分析をしたり、いくつかの別の手法でも確認したりする必要があります。杉谷キャンパスでは高価な精密機器を生命科学先端研究支援ユニットに集中させており、分子の構造解析、遺伝子実験、アイソトープ実験、動物実験が行えます。
 分子・構造解析施設では、見つけてきた小さな分子の形や質量を解析して、どのような物質かを知ることや、小さな分子間のお互いの作用を調べることができます。遺伝子実験施設には多数のPCR装置がある他、遺伝情報であるゲノムの解析ができるようになっています。アイソトープ実験施設では、放射線同位元素というものを用いてごく微量な物質を捉える研究が行われています。動物実験施設では、一般的な動物実験の部屋以外に、マウスの行動を調べる部屋や、人工授精やゲノム編集などを行う部屋、感染症の研究を行う部屋などが設けられています。
 このような整った環境を利用して、国際的にも評価が高い研究成果が生み出されています。特徴的な研究はより連携しながら取り組めるような体制がとられ、2020年度には睡眠や無意識状態での脳の働きとそのメカニズムについての研究を行う「アイドリング脳科学研究センター」、2022年度には感染症の治療や診断につながるような抗体の開発やメカニズムの研究を行う「先端抗体医薬開発センター」が設置されました。同じ杉谷キャンパスにある薬学部、和漢医薬学総合研究所だけでなく、五福キャンパスにある工学部、理学部などの他の学部との連携も盛んです。さらに、データサイエンスやAIなどの分野や、医学部以外の他分野の専門家と共同で取り組むことで富山大学の基礎医学研究が進んでいます。

トップジャーナルのScience誌に
掲載された脳科学研究成果

時代に柔軟に対応する基礎医学

 基礎医学は、未知と戦うために人類が手にした武器とも言えます。新型コロナウイルス感染症への挑戦はまさにその代表です。富山大学ではPCR検査体制をただちに整え、県内の検査依頼にも迅速に対応してきました。この取り組みは、文部科学省でも大学が検査を支援する例として紹介されています。また、免疫のでき方やワクチンの有効性についての豊富な論文は国内の医療方針にも活かされてきました。この貢献は2023年には高い病原微生物の動物実験を安全に取り扱いできるABSL3実験室の整備にもつながり、日本海側では随一といえる感染症研究拠点となりました。
 医学研究では、基礎医学の発見が臨床で活用されることを目指しています。国内には、基礎研究者だけで素晴らしい成果を挙げられるグループもありますが、富山大学の最大の特徴は、基礎医学と臨床医学の両者が連携する基盤が備わっていることにあります。臨床から発信される社会的なニーズに、研究で応えることができれば、その恩恵はダイレクトに社会に還元されます。新型コロナウイルス感染症に限らず、差し迫った困難を乗り越えるという時代のニーズにも迅速に対応できるような基礎と臨床の連携体制が富山大学にはあります。

新型コロナウイルスの
PCR検査支援

生命科学と若い力

 生命科学(LifeScience)が立ち向かうべき課題は、これからも絶えることはありません。そのためには,未知の分野に突き進んでいく意気込みをもった若い優秀な人材の参入が不可欠です。富山大学には時間をみつけて研究活動に積極的に参加する学生もたくさんいます。このように、基礎医学の視点をはぐくんだ医療人が育つ土壌があることは富山大学の特徴です。
 基礎研究は、成果に至るまでの道のりは単純なものではなく、また世界を相手にするチャレンジングなものです。大きな夢をもった若い皆さんがともにこの分野で活躍することを熱望しています。

自主的に研究活動に取り組む学生

【微生物学講座 教授 森永 芳智】