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ポストコロナ時代の医療人養成

情報通信技術(ICT)を活用した医療人教育

 医学部では、学習管理システム(Moodle) を用いた学修のオンライン化に先駆けて取り組んでいたことにより、コロナ禍でもオンライン授業へスムーズに移行できました。対面型とオンライン型の良い面を組み合わせて学修に活用し、講義のみならず、心肺蘇生講習会、臨床実習、グループ討議、試験など、新しい学修法に学生と教職員が協力して取り組んでいます。
 また、実技の訓練の際に用いる医療用シミュレータでは、各自のスマートフォンを用いて学生同士で評価する仕組みも取り入れています。医療人には、お互いの役割を理解し、コミュニケーションをとる能力も必要です。医学・薬学・看護学合同でのオンライン演習も導入しています。

「感染症医療人材の養成」と「地域医療人材の養成」

 富山大学は、文部科学省から様々な人材養成事業に選定されています。「感染症医療人材養成事業」では感染症教育により地域の感染制御の即戦力となる感染症医療人材を養成しています。2022年からの「ウィズコロナ時代の新たな医療に対応できる医療人材養成事業」では、全国3か所の拠点のひとつとして、最先端の機器に触れながらコロナで大きく変わった検査を学修したり、感染対策に必要な知識や技術を修得できる環境がより充実しました。また、2023年からの「ポストコロナ時代の医療人材養成拠点形成事業」では、新潟大学とともに呉東地区、糸魚川地区、上越地区を中心として地域医療を担う人材を両大学が協力して積極的に養成していくことになりました。修得した知識や技術を社会還元するところまでを学修することで、地域社会のニーズに傾聴でき時代に合わせて対応できる人材育成に取り組んでいます。

微生物を瞬時に検出する質量分析
新入生医療学研修の感染対策として、
入学したての300人が自ら抗原検査を実践
低学年から取り組む新型コロナ検査実習

データサイエンス、ビッグデータ、人工知能(AI)、
持続可能な開発目標(SDGs)などの新しい分野に対応した教育を実施

データサイエンスは今後の医療者にも必須な能力

 IoT、クラウド、AIなどの情報通信技術の発達により、様々な人々の活動がネットワークを通じビッグデータとして集約されるようになりました。このデータは集約だけでなく、分析によって初めて私たちの活動に活用することができます。医療に関わるデータを活用するために、データサイエンスの基本的な能力を学修し、使いこなすことが求められています。
 北陸地区では富山大学の取組「数理・データサイエンス教育の全学必修化と北陸地区の大学連携による地域への普及」が文部科学省「数理・データサイエンス・AI 教育の全国展開」協力校に選定されました。令和2年度以降の入学生から数理・データサイエンス教育が必修化され、MATLAB®などの高機能なソフトウェア及びその教育資料を無料で使用することができます。金沢大学及び福井大学と連携しながら、ノウハウの共有や授業科目の提供等を行い、北陸地区の高等教育機関への普及を図っています。必修化された数理・データサイエンス教育に加えて、各学部の特徴に合わせた教育が実施されており、データサイエンスに関わるさらに深い学修が可能です。医学部では、医療や保健に関わる医療統計など、ビッグデータを含めた分析によって、医療における課題の検討などの学修を進めています。

データサイエンスソフト(MATLAB®)(”MATLAB® on Arch Linux (xfce)”by Belhor_ is licensed under CC BY-NC-SA 2.0)
AI テキストマイニングの結果例(Userlocal)

SDGs は世界的な動き

 富山大学では、2015年の国連サミットで採択された持続可能な開発目標(SDGs)を支援しています。全学部の教員が協力して、SDGs関連科目を開講しています。また様々な社会活動にも取り組んでおり、学生は講義・実習を通してSDGsを学修します。

世界で活躍する医療人の養成

米国式の臨床実習を経験―ハワイ医学教育プログラム
(Hawaii Medical Education Program HMEP)―

 医学科では、世界で活躍できる医師を育成することを目的として、ハワイ医学教育プログラムに登録しています。
 近年、米国において新興国などからの臨床実習希望者が増加していることから、米国における外国人医学生の受入条件が厳しくなり、日本の医学生が米国で臨床実習をすることが困難になってきました。
 そこで、希望者に対して、入学時から医学を英語で学修して在学中にハワイ大学での医学教育を経験できるように企画したのが、ハワイ医学教育プログラムです。
 ハワイ医学教育プログラムは、学内の担当教員が全体をコーディネートしています。在学中から海外経験を希望する学生にとって、非常に良い環境が提供されています。

アジア諸国との国際交流

 看護学科では、アジア諸国との交流を進めています。学会参加だけではなく,2019 年にはインドネシアのハサヌディン大学との学術交流に関する覚書を交わしました。富山大学の教員が視察に行っており、今後の共同研究が期待されるところです。また経済連携協定(Economic Partnership Agreement:EPA)に基づき、アジア諸国出身の看護師候補者が国家試験を受験する機会が増えました。少しでもサポートするため、漢字へのルビや、疾病名への英語併記などを自動化して作成したドリルを公開しています。

医師・看護師等の資格の取得を全面的に支援

図書館は 24 時間利用可能

 杉谷キャンパスの医薬学図書館は、24時間利用可能です。自宅から利用できるオンライン図書も年々、増加しており、学修環境の改善が図られています。
 館内には学生がグループで学修できるグループ学習室が整備されています。また、各学年の学生代表が参加するカリキュラム委員会では学修環境について意見交換が行われ、定期的に学修環境やカリキュラムの改善が行われています。
 学習管理システム(Moodle)やテレビ会議システム(Teams 等)が整備され、双方向的なe-Learningなど、情報通信技術を活用した教育が提供されています。

国家試験合格を全面的に支援

 教育プログラムの過不足は定期的に調整され、新たに必要となる学修内容をいち早く導入しています。また、国家試験や外部模試の結果を解析し、学生や教育プログラムに対してフィードバックをしています。
 医学科では令和2年度から卒業時の実技試験が正式に実施され、実質国家試験化しました。臨床実習では経験が不足する医療行為を模擬的に練習できる環境が整っています。
 看護学科では、4年次11月中旬から2月下旬まで国家試験に向けての自主学習となっています。そのために各講座で冷暖房完備のゼミ室などを提供し、質問等にも対応しています。学生によっては図書館や自宅など、集中できる場所が異なりますが、学生間での想定問題などを出し合い、団体戦として学習することが望ましいようです。また、3年次からは教員のサポートもありますが、基本的には学生が主体となって国家試験対策委員会が編成されます。看護師等国家試験模試の回数や日時、キャンパス内での受験会場などを設定し、模試を受けます。模試においても例年好成績が得られています。
 このような方法により、医師・看護師等の資格取得を支援しています。

医薬学図書館
グループ学習室(セミナールーム)
情報処理室

富山県出身者を対象とする入学枠

地域の医療の現状

 全国的に地方から都市への医師の流出が進み、県内の医師不足も深刻化しています。また、新型コロナウイルス感染症では、医療と行政の連携がうまくいかず医師偏在も影響しているといわれています。全国的な傾向として、卒業後、都市部に出ると戻ることは稀なため、多くの大学で地域枠を設けることで医師確保に取り組んでいます。国としても「地域医療構想」として、少子・高齢化社会への対策に乗り出しているところです。
 富山県出身者枠の設定は、流出する医師不足の解消を目的としているだけでなく、富山大学の特徴を活かして、これからの時代に求められている住民の皆さんや行政機関と連携できる医療人養成を行うことも目的としています。

富山県でキャリアを積む入試枠

 医学科を卒業すると、研修医となり指定医療機関で定められた期間研修を行うこととなります。富山大学では、医師のキャリアをスタートさせるこの重要な時期に、富山県内で研修を行うことを条件として、富山県出身者を対象とした入学試験を設置しています。

富山県出身者を対象とした入学試験(概要)

求められるプロフェッショナリズム

 このように、富山県出身者枠は富山県全体の医療を維持し、県民の皆さんの思いにこたえるために設けられたものです。サポート体制も充実しており、入学後には、学修支援・進路相談として行われる勉強会や研修会、面談などを通して、カリキュラム+αの学修とプロフェッショナリズムが養成されます。受験する前から自分自身にその責任を問いかけ、入学後も継続してそのプロフェッショナリズムを磨き、卒業後は定められた研修・診療に従事できるかどうかを真剣に考えてください。
 これらは特別に設けられているため、研修する医療機関や卒業後の定められた年限、富山県特別枠の場合には進むことができる診療科に制限があります。ただし、この制限の中で成長して磨いていけるかは自分自身です。これらの入学枠の卒業生がしっかりと役目を果たしているかどうかは常に評価されていて、計画通りに進まない場合には、仕組み自体がなくなるおそれもあります。これは、富山県自体の不利益であるとともに、将来受験する人達の可能性を狭めることにもつながります。迷いがある方は、一般入試枠で受験してください。
 学生生活を含めると9~17年後までの約束を伴う入試枠で、これほど先のことを想像することは簡単なことではありません。受験者本人だけでなく、家族の方にもこの入学枠設置の背景と社会的責任を十分に理解いただく必要があります。
 医療人は病める人のために尽くす職種であり、富山大学は「仁の精神」をもって地域と世界で活躍できる医療人を求めています。その、富山愛を存分に発揮してくれる人、卒後に富山県を支えてくれる人、そしてそのマインドを後輩にもつなげたいという人をお待ちしています。

 なお、詳細は必ず最新の学生募集要項をご覧ください。

キャリアパスとしての大学院進学(医学)

大学院(生命・臨床医学プログラム)

 大学卒業後のキャリアパスの一つとして大学院進学があります。富山大学大学院総合医薬学研究科 総合医薬学専攻 生命・臨床医学プログラム(博士課程・設置構想中)は4年制であり、所定の単位を修得し、学位論文の提出により、博士(医学)の学位が授与されます。
 総合医薬学研究科では医学、薬学及び看護学を総合した特色ある教育と研究を礎とし、幅広い知識を基盤とする高い専門性と人間尊重の精神を基本とする豊かな創造力を培い、学術研究の進歩や社会に積極的に貢献できる総合的な判断力を有する高度医療専門職業人または教育研究者としての人材を育成することを目的としています。
 大学院総合医薬学研究科 生命・臨床医学プログラムでは基礎医学、社会医学、臨床医学など現代における医学の幅広い分野をカバーしています。本学では「プロの医学研究者」になるための必須のスキルの修得から卒業後を見据えたキャリア形成まで総合的に学ぶことが可能です。近年、研究のボーダレス化が加速し、分野を越えて、国境を超えて研究を行う必要がありますが、本学では講座間での共同研究や国内・国際共同研究を盛んに行なっており、世界に向けた多くの研究成果を発表しており、その中心に大学院生が関わっています。
 大学院への進学するタイミングは学部卒業後、初期研修終了後、後期研修終了後など多様です。本学では後期研修のプログラムの中に大学院進学を組み込んだものもあり、効率よく大学院で学ぶことができます。さらに、本学附属病院や関連病院に勤めたままでも、社会人大学院生として、仕事と研究を両立させながら、大学院で研究ができる制度もあります。また、本学の学部で所定のプログラム(研究医養成プログラム)を修了していれば3年間で学位を修得することも可能です。

大学院進学のタイミング

修了後の進路

教員・研究者(大学、研究所等)
医師(病院、行政機関)
企業(創薬開発、治験関連)

 大学院を修了して得られる博士(医学)の学位は、キャリアパスの可能性を拡げます。大学院の卒業者は大学教員、研究者、病院における医師として活躍しています。また、製薬企業、医療関連機器の企業、ヘルスケア企業などに就職する卒業生もいます。厚生労働省、県などの行政機関、保健所などの公的機関に進む道もあります。さらに研究を続けるため米国や欧州の大学・研究所に海外留学をする卒業生も多くいます。富山大学医学部医学科卒業生も、多くの方が大学院に進学し、富山だけでなく日本中、世界中で活躍しています。

キャリアパスとしての大学院進学(看護学)
~看護学スペシャリストを目指すあなたに~

 大学院では博士前期課程、博士後期課程を設置しています。研究者、看護学教員、診療看護師(NP)、がん看護専門看護師(CNS)、母性看護専門看護師(CNS)および省庁の技官になりたい人などのニーズに応え得るコースがありますので、ご自身の人生の中での貴重なキャリア形成の基礎を構築することができます。
 看護科学プログラムにおける教育は、大学院共通科目、研究科共通科目、看護科学プログラムの各科目、学位論文指導により構成されています。

博士前期課程

 博士前期課程看護科学プログラムには以下の4コース、各専門分野があります。修業年限は2年間ですが、長期履修制度を活用し(4年間まで)社会人として仕事と学業を両立しながらの学修も可能です。どのコースでも修士(看護学)を取得できます。

① 研究者コース:看護ケアサイエンス学 母子看護学 地域・老年看護学
② がん看護専門看護師(CNS)コース
③ 母性看護専門看護師(CNS)コース
④ NP(ナースプラクティショナー)コース

 すべてのコースにおいて共通科目があります。共通科目は、大学院共通科目と研究科共通科目の履修により幅広い知識を基盤とし、チーム医療・多職種協働を実践できる教育課程を編成しています。1年次より、学位論文の研究課題・計画を検討します。倫理手続きを遵守し研究を遂行し、修士(看護学)の学位論文を作成します。

① 研究者コース
今後ますます発展する看護学において研究者としての基礎を身に付けます。これによって、看護大学の教員など、教育・研究への将来的な道が開きます。各領域の特論,演習を終えたのち,修士論文作成に向けて特別研究を行います。

② がん看護専門看護師(CNS)コース
がん看護における高度な専門知識と技術を身に付け、質の高いケアを患者に提供することが出来ます。各領域の特論、演習を終えたのち、所定の実習を行い、修士論文作成に向けて実践特別研究を行います。

③ 母性看護専門看護師(CNS)コース
女性の健康において高度な専門知識と技術を身に付け、質の高いケアを患者に提供することが出来ます。各領域の特論、演習を終えたのち、所定の実習を行い、修士論文作成に向けて特別研究を行います。

④ NPコース
診療の実際を学ぶことを通し、診療看護師(NP)の役割を担うための実践力を養う実習が多くを占めますが、実践課題も行います。急性期領域、慢性期領域において診療にも携わる高度な専門知識と技術を身に付け、質の高いキュアとケアを患者に提供することが出来ます。

※②~④は、看護師経験必須

博士後期課程

 博士後期課程では持続可能な地域ケア体制・ケアシステムを構築し、国民の健康(身体的、精神的、社会的、スピリチュアル)と自助・共助・公助がバランス良く機能するコミュニティの形成を目的とし、共通科目の他、以下の3つの専門分野をおいています。修業年限は3年間ですが、長期履修制度(6年間まで)を活用し、社会人として仕事と学業を両立しながらの学修も可能です。博士後期課程は、前期課程からの連続で進学されると入学金は不要です。論文提出後、審査を通り、博士(看護学)を取得できます。

① 基礎看護科学分野
全人的な個としての在り方を、「基礎看護学」での看護観・人間観・健康観に基づく捉え方、及び、「精神看護学」でのスピリチュアルな側面をも含めた全人的捉え方に統合・発展させた教育・研究を行います。

② 臨床・生体機能看護科学分野
全人的な個として、環境との相互関係で発生から成長発達していくという見方から、「基礎看護学」での細胞レベルでの人間の理解、また環境と人間との相互関係からみる生体防御システム、「母子看護学」及び「成人看護学」での発達段階及びその時期に特有の健康問題等を統合・発展させた教育・研究を行います。

③ 地域ケアシステム看護科学分野
地域社会でのケアシステムの在り方を、「老年看護学」での高齢者とその家族に対する生活文化を尊重した看護と、「地域看護学」でのコミュニティが持つ自助・共助の力の醸成及び包括的な社会資源として機能させる看護を統合・発展させた教育・研究を行います。

看護学スペシャリストへの道