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2025.04.30

腫瘍マーカー遺伝子モデルの開発
~進行すい臓がん患者に適切な手術の指標を~

■ポイント
 膵臓がんは進行した状態で診断されることが多く、生存率の低いがんのひとつである。
 治療には、抗がん剤や放射線治療に加えて、適切な時期に手術することが重要である。
 手術の可否の判断には腫瘍マーカーが参考になるが、その個人差が課題であった。
 腫瘍マーカーと遺伝子タイプの組み合わせがよい指標となり得ることを発見した。

■概要
 名古屋大学医学部附属病院 消化器・腫瘍外科の田中晴祥 助教、富山大学医学薬学教育部生命・臨床医学専攻の酒井彩乃 大学院生、名古屋医療センター 外科の末永雅也 医長、富山大学学術研究部医学系 消化器・腫瘍・総合外科の藤井努 教授、名古屋大学大学院医学系研究科 腫瘍外科学の江畑智希 教授、名古屋医療センターの小寺泰弘 院長(研究当時 名古屋大学大学院医学系研究科 消化器外科学 教授)らの研究グループは、進行すい臓がんに適応しうる新たな予後指標モデルを開発しました。
 すい臓がんは進行した状態で診断されることが多く、生存率の低いがんのひとつです。この治療には、抗がん剤や放射線治療に加え、適切な時期に手術すること(集学的治療)が重要です。適切な手術のタイミングや手術の可否の判断には、CA19-9やDUPAN-2といった腫瘍マーカーの推移が参考になりますが、個人差があるため評価が困難になることが課題となっていました。
 今回の研究では、FUT2遺伝子とFUT3遺伝子のタイプと、腫瘍マーカーの値との関係に着目し、術前の抗がん剤や放射線治療による変化を遺伝子タイプ別に解析しました。すると、CA19-9とDUPAN-2は、病気の重さ(切除可能性分類)よりも、FUT2/3のタイプごとの腫瘍マーカー差の方が明瞭でした。
 そこで、診断時には切除できないと診断されたものの、治療によって手術が可能となった患者さん向けに、CA19-9・DUPAN-2・FUT2/3 タイプを組み合わせた新たな予後指標(遺伝子腫瘍マーカーモデル)を開発しました。一般的なマーカーの正常値だけに頼った指標と比較して、本モデルの生存率の予測性能は明らかに優れており、より正確な生存率を予測し得たことを発見しました。
 本研究により、今後はこの遺伝子腫瘍マーカーモデルに沿って、手術をするかを判断することで、メリットの少ない手術を回避できることや、「手術できない」と見過ごされてきた患者さんの一部に手術を提案できることが期待されます。

 本研究成果は、2025年4月29日付(日本時間4月29日9時)英国科学誌『British Journal of Surgery』に掲載されました。

論文名 : FUT2 and FUT3 specific normalization of DUPAN-2 and Carbohydrate Antigen 19-9 in preoperative therapy for pancreatic cancer: a multi-center retrospective study (GEMINI-PC-01)

著 者 : Haruyoshi Tanaka1,2,†, Ayano Sakai2, Masaya Suenaga3, Masamichi Hayashi1, Tomohisa Otsu1, Nobuhiko Nakagawa1, Keisuke Kurimoto1, Mina Fukasawa2, Kazuto Shibuya2, Nobuyuki Watanabe1, Masaki Sunagawa1, Junpei Yamaguchi1, Takashi Mizuno1, Toshio Kokuryo1, Hideki Takami1, Tomoki Ebata1, Tsutomu Fujii2, Yasuhiro Kodera1
1) Department of Surgery, Nagoya University Hospital, Nagoya, Japan
2) Department of Surgery and Science, Faculty of Medicine, Academic Assembly, University of Toyama, Toyama, Japan
3) Department of Surgery, NHO Nagoya Medical Center, Nagoya, Japan
Contributed equally to this work

掲載誌 : British Journal of Surgery
DOI : https://doi.org/10.1093/bjs/znaf049

【本発表資料のお問い合わせ先】
 富山大学学術研究部医学系 生化学講座  
 教授 藤井  努
 TEL : 076-434-7331
 Email : fjt@med.u-toyama.ac.jp

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【Press Release】
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