2025.05.13
強心剤が「がん転移の根源」となる細胞を封じる新機構を発見
■ポイント● がん転移は、「血中循環がん細胞」(元のがん組織から脱離した細胞)が、体内を巡り、別の臓器に生着することで引き起こされる。今回の研究により、がん組織に異常に存在する「α3型ナトリウムポンプ」が、血中循環がん細胞の生存に必須であることが明らかになった。
● がん細胞が元の組織から離れる際、細胞内のα3型ナトリウムポンプが細胞表面へダイナミックに移動し、この仕組みが、血中循環がん細胞の体内移動に不可欠であることが判明した。
● 強心剤「ジゴキシン」は、α3型ナトリウムポンプに作用し、血中循環がん細胞を死に誘導することで、がん転移を抑制することが確認された。
● 本研究成果は、がん転移の根源となる「血中循環がん細胞」に対する新たな治療戦略の開発につながることが期待できる。
■概要
富山大学 学術研究部医学系 消化器・腫瘍・総合外科の藤井努教授、附属病院 診療指導医 消化器外科 沼田佳久医師、同薬学系 薬物生理学研究室の藤井拓人講師、酒井秀紀副学長らの、医学・薬学共同研究グループは、がん細胞に異常発現する「α3型ナトリウムポンプ」が、元のがん組織(原発巣)では細胞内小胞に局在している一方、原発巣から脱離して血中に移動した「血中循環がん細胞(CCC)」では細胞膜(細胞表面)に移動し、CCCの生存に重要な役割を果たしていることを発見しました。また、強心剤として心不全治療に利用されている「ジゴキシン」は、α3型ナトリウムポンプの細胞膜への移動を阻止することで、CCCの細胞死を引き起こし、別の臓器への転移が抑制できることを動物実験で実証しました。本成果は、転移の根源であるCCCを標的とする新たながん治療戦略の開発に貢献することが期待されます。
本研究は、日本学術振興会 科学研究費助成事業、田村科学技術振興財団「The Tamura SY2 Research Project」、富山県 アカデミア創薬支援事業(アンメット メディカルニーズ創薬)の支援のもとで行われたものです。
本研究成果は、2025年5月11日(日)に、英国科学誌「Cell Death & Disease」のオンライン版に掲載されました。
論文名 : Digoxin promotes anoikis of circulating cancer cells by targeting Na+/K+-ATPase α3-isoform
著 者 : 沼田佳久1, 藤井拓人2, *, 戸田千尋2, 奥村知之1, 眞鍋高宏1, 武田直也1, 清水貴浩2, 田渕圭章3, 藤井努1, *, 酒井秀紀2
(*:藤井拓人と藤井努は共同責任著者)
1 富山大学 学術研究部 医学系 消化器・腫瘍・総合外科
2 富山大学 学術研究部 薬学・和漢系 薬物生理学研究室
3 富山大学 研究推進機構研究推進総合支援センター 生命科学先端研究支援ユニット
DOI : https://doi.org/10.1038/s41419-025-07703-z
【本発表資料のお問い合わせ先】
富山大学学術研究部薬学・和漢系
講師 藤井 拓人
● TEL : 076-434-7577
● Email : fujiitk@med.u-toyama.ac.jp
富山大学学術研究部医学系 生化学講座
教授 藤井 努
● TEL : 076-434-7331
● Email : fjt@med.u-toyama.ac.jp
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【Press Release】
強心剤が「がん転移の根源」となる細胞を封じる新機構を発見