2025.09.02
細胞骨格タンパク質セプチン3が欠けたマウスは状況次第で行動異常を呈する
~ 網羅的行動解析で判明 ~
■ポイント
● SEPT3が欠損したマウスに対して 、社会性や記憶、ワーキングメモリなどを含む複数の行動試験を用いた初めての網羅的な行動解析を行なった。
● 行動の異常は常に見られるのではなく、特定の状況や課題においてのみ明確に現れることが明らかとなった。たとえば、ある社会性テストでは社会性の向上が見られる一方で、別の形式では異常が見られないなど、課題や環境の違いによって行動の現れ方が異なるという特徴が確認された。
● 出来事とその状況(環境・場 所・背景)を結びつけて覚える記憶(文脈性記憶)や、空間情報を一時的に保持して活用する力(ワーキングメモリ)に一部の低下が見られた。これに対し、1カ月程度経過した後の記憶は保たれており、記憶の種類や保持期間によっても異なる影響が現れることが示された。
● 人も動物も、場面に応じて行動を切り替える力を持っている。しかし、脳内のしくみがうまく働かないと、この柔軟な対応が難しくなることがある。今回、脳の神経細胞(ニューロン)に広く発現するSEPT3が欠けたマウスを詳しく調べたところ、「すべての場面で異常」ではなく、「ある特定の場面や状況でだけ行動が乱れる」という特徴が見つかった。これは、行動の背景にある脳のはたらき方を理解する手がかりになると考えられる。
■概要
東邦大学の上田(石原)奈津実准教授、富山大学の高雄啓三教授、藤田医科大学の宮川剛教授、名古屋大学の木下専教授らの研究グループは、脳の神経細胞(ニューロン)に広く発現する細胞骨格タンパク質セプチン3(以下、SEPT3)に欠損を持つ雄マウス(Sept3-/-)を用い、標準化された複数の行動試験による初の網羅的な行動表現型解析を行いました。その結果、課題や環境の違いに応じて現れる選択的な行動異常を見いだしました。
Sept3-/-マウスは、 特定の社会性試験では相互接触の増加(社会的接近行動の増加 )を示す一方、別の形式の社会性試験では異常が見られないといった課題や環境の違いに依存した反応を示しました。また、恐怖記憶を保持する能力の低下や、空間の一時的な記憶力(ワーキングメモリ)の低下も確認されました。
これらの結果は、SEPT3の機能を脳回路レベルから捉え直す手がかりを提供するとともに、将来的にはこのような場面に応じた行動異常を特徴とする神経・精神疾患の理解や、治療標的の探索にも貢献することが期待されます。
本研究成果は、2025年8月22日に米国の神経科学分野の学術誌「 Molecular Brain 」に掲載されました。
論文名 : Comprehensive behavioral phenotyping of male Septin 3 deficient mice reveals task-specific abnormalities
著 者 : Natsumi Ageta-Ishihara*, Keizo Takao, Tsuyoshi Miyakawa,and Makoto Kinoshita*
DOI : https://doi.org/10.1186/s13041-025-01243-5
【本発表資料のお問い合わせ先】
富山大学学術研究部医学系
教授 高雄 啓三
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【Press Release】
細胞骨格タンパク質セプチン3が欠けたマウスは状況次第で行動異常を呈する
~ 網羅的行動解析で判明 ~