2025.10.23
トホグリフロジンは、肥満により低下した骨格筋損傷からの回復を促進する
■概要
富山大学学術研究部医学系の内科学第一講座(加藤 将教授)のムハンマド・ビラール特命助教、藤坂志帆准教授と富山大学未病研究センターの戸邉一之特別研究教授らの研究グループは、SGLT2阻害薬であるトホグリフロジンを肥満モデルマウスに投与すると、カルディオトキシンによって誘導された骨格筋損傷後に、筋線維形成が促進され、損傷からの回復が促進されることを見出した。トホグリフロジンの投与は、骨格筋内の線維脂肪前駆細胞(FAPs)を活性化し、フォリスタチン(Fst)の発現を上昇させる。トホグリフロジンは、肥満により低下したAMPキナーゼの活性を回復し、FAP細胞からのフォリスタチンの分泌を増加させることにより筋線維の再生プロセスを亢進させる。さらに、骨格筋損傷後の運動耐容能も向上することが確認された。本研究成果は、特に日本人で増加している肥満型2型糖尿病における骨格筋損傷からの回復を促進する新たな治療法の開発につながることが期待される。
■ポイント
● 日本人の2型糖尿病の特徴は、インスリン分泌の低下と内臓脂肪の蓄積により、肥満ではない人でも発症する点である。内臓脂肪の蓄積や肥満は、骨格筋への脂肪沈着により機能障害を引き起こし、最終的に運動機能の低下を招き、骨格筋の萎縮を伴う「サルコペニア性肥満」と呼ばれる状態に至る。したがって、インスリン抵抗性と肥満を有する2型糖尿病患者において、骨格筋機能の保護と筋形成の促進を目標とした治療戦略は、高い期待が寄せられている。
● 肥満は、脂質代謝、全身性炎症、インスリン抵抗性への影響を通じて筋機能障害を引き起こし、筋萎縮と再生能力の低下を招く。ナトリウム・グルコース共輸送体2阻害薬(SGLT2i)は、SGLT2を選択的に阻害し、腎臓でのグルコース取り込みを低下する作用を有し、現在、糖尿病の治療に広く使用されている。SGLT2iは、高血糖により引き起こされるさまざまな臓器の機能障害に対し、多様な保護作用を有することが報告されている。また、糖尿病に伴う慢性高血糖により骨格筋におけるインスリンシグナルが低下し、ブドウ糖やアミノ酸の取り込みが低下する。しかし、損傷モデルにおいてトホグリフロジンが筋線維の形成を促進するメカニズムは、研究されていなかった。
● 本研究では、高脂肪食負荷による肥満におけるトホグリフロジンの骨格筋修復における役割を調査した。C57BL/6J雄マウスに対し、トホグリフロジンを添加した高脂肪食(HFD)または添加しないHFDを12週間摂取させた。これらのマウスにカルディオトキシン(CTX)を用いて急性損傷を誘導した。高脂肪食負荷による肥満下でのトホグリフロジン投与は、全身のグルコース代謝を改善し、CTXによって誘導された骨格筋損傷後にPax7とMyoGの発現を誘導し、筋線維形成を促進した。トホグリフロジンは骨格筋内の線維脂肪前駆細胞(FAPs)を活性化し、フォリスタチン(Fst)の発現が上昇し、損傷後の筋形成を促進した。
● 本研究では、トホグリフロジンの投与が肥満によるAMPKリン酸化の低下を回復させ、ミトコンドリア機能を向上させ、これにより骨格筋機能を改善し、高脂肪食(HFD)を摂取した肥満マウスにおいてCTXによって誘導された骨格筋損傷後の運動耐容能を向上させたことが示された。
本研究成果は、2025年10月22日10時(英国時間) (日本時間22日18時)に英国科学誌「Scientific Reports」にオンラインで公開されました。
論文名 : Tofogliflozin ameliorates cardiotoxin induced skeletal muscle injury and fibrosis in obesity
著 者 : Muhammad Bilal1,2,3, Nguyen Quynh Phuong1,4, 角 朝信1, 劉 建輝1,5, Le Duc Anh1, Sana Khalid6, Muhammad Rahil Aslam1, Memoona1, 西村 歩1,7, 五十嵐 喜子1,8, 渡邊 善之1, Waseem Abbas2,9, 小野木 康弘2, 平林 健一10, 山本 誠士11, 八木 邦公1,12, Marsel Lino13, 薄井 勲14, 加藤 将1, 藤坂 志帆1, Allah Nawaz1,13, 戸邉 一之2,15
1富山大学学術研究部医学系 内科学第一講座, 2富山大学学術研究部教育研究推進系 未病研究センター, 3日本糖尿病学会 特別研究員, 4富山大学学術研究部医学系 臨床腫瘍部, 5Department of Cardiovascular Medicine, Lihuili Hospital Affiliated to Ningbo University, Ningbo, Zhejiang, China, 6富山大学学術研究部医学系 分子神経科学講座, 7富山大学学術研究部教育研究推進系, 8JSPS Research Fellowship for Young Scientist Japan,
9富山大学学術研究部医学系 分子薬理学講座, 10富山大学学術研究部医学系 病理診断学講座, 11富山大学学術研究部医学系 病態・病理学講座, 12金沢医科大学 総合内科学 生活習慣病センター, 13Section of Integrative Physiology and Metabolism, Joslin Diabetes Center, Harvard Medical School, Boston, MA, USA, 14獨協医科大学 内分泌代謝内科, 15富山大学学術研究部医学系
掲載誌 : Scientific Reports
DOI : https://doi.org/10.1038/s41598-025-12734-9
富山大学未病研究センター
特別研究教授 戸邉 一之
● TEL : 076-434-7219
● Email : tobe@med.u-toyama.ac.jp
富山大学学術研究部医学系 内科学第一講座
准教授 藤坂 志帆
● TEL : 076-434-7287
● Email : shihof@med.u-toyama.ac.jp
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トホグリフロジンは、肥満により低下した骨格筋損傷からの回復を促進する

