ホーム > 不育症
不育症について

不育症とは、妊娠はしますが流産や死産を繰り返し、元気な赤ちゃんを生めない方を言います。約4%の頻度と言われています。
富山大学産科婦人科の齋藤 滋教授は、これまで日本産科婦人科学会で小委員長を務め、不育症の検査法、治療成績をまとめてきました。また、日本生殖免疫学会でも委員長となりスクリーニング法を確立してきました。
そのことが認められ、2008年度から2010年まで厚生労働省の不育症の研究班の委員長となり、全国の不育症の研究をまとめています。

不育症治療イメージ


不育症は正しい検査をして、その上で正しい治療を行なえば80%以上の方が元気な赤ちゃんを持つことができています。このような情報があまり知られていないため、妊娠を諦めてしまっているカップルも少なくありません。ぜひ産婦人科を受診して下さい。ただし、専門医が少ないので是非とも専門医への受診をお勧めします。

富山大学へは、北陸地区から多くの患者さんが集まっています。
ぜひあきらめないで治療を受けてください。
なお月曜日と金曜日が不育症外来となっています。

不育症とは?

不育症とは、流産や死産を繰り返し、妊娠はしますが、妊娠を維持する機構がうまく働かず、成熟した赤ちゃん(生児)が得られない場合をいいます。
連続2回以上繰り返した際には不育症と定義されますので、精密検査をお勧めします。

また年齢が高齢になるにつれ、流産率が高くなりますので (表1)、早めの治療が必要です。

表1 流産率と年齢との関係(BMJ 320:1708,2000のデータ)
年 齢 流産率
~19歳 13.3%
20~24歳 11.1%
25~29歳 11.9%
30~34歳 15.0%
35~39歳 24.6%
40~44歳 51.0%
45歳~ 93.4%

流産は15%程度に起こりますが、表2に示しますように、今までの流産回数が増えれば増えるほど、次回妊娠時での流産の頻度が増えてきます。
連続2回以上流産を繰り返した方は、次回の妊娠で35-45%もの流産を示します。このため、流産を起こしやすい原因がないかどうかを調べる必要があります。
2回の流産は女性の4~5%、3回以上の流産は女性の1%に認められます。
原因がわかる人が約半数、原因がなく、たまたま運悪く流産した人が約半数います。検査を行えば、どちらかが判明します。

表2 過去の流産回数と次回妊娠時の流産率
今までの流産回数 次回妊娠時の流産の割合
0 14%
1

20-30%

2 35-45%
3 45-70%
不育症の原因は?
いろいろな原因で流産・早産が起こってきます。
子宮の形が悪かったりすると、流産が多くなります。また、甲状腺の機能が亢進したり、低下しても流産になります。
また妻や夫のどちらかに染色体異常があった場合も、流産率は高くなります(妻や夫には異常は全くありませんが、卵や精子になり、染色体が半分になり受精した際に異常が生じます)。
抗リン脂質抗体等の自己抗体が認められたり、血栓を予防するプロテインSやプロテインCが低下したり、凝固因子の第XII因子が低下すると、血栓という血の塊ができやすくなり、胎盤のまわりに血栓ができると流産、死産になります(図 1)。
また、NK(ナチュラル・キラー)細胞はもともと、身体の中にできた「がん細胞」やウイルス感染した細胞を破壊する細胞ですが、この細胞の力が強すぎると赤ちゃんを攻撃してしまい、流産となります。富山大学ではこの検査を行っており、約20%に陽性となっています。また抗PE抗体という抗リン脂質抗体も測定しています。
その他ストレスも流産を引き起こします。
図1 不育症のリスク別頻度
不育症の検査と治療法について
表3に検査と治療法を示しました。
流産の原因がわかれば、正しい治療を積極的に行います。
表3
原 因 検 査 治 療
子宮異常 子宮卵管造影
MRI、超音波
手術
ホルモン異常 採血による検査 薬物
染色体異常 夫婦の染色体検査(自費)
        (採血)
流産回数を重ねれば
元気な赤ちゃんを
望める場合も多い。
カウンセリング
抗リン脂質抗体 採血による検査
抗PE抗体
抗カルジオリピン抗体
抗β2GPI抗体
アスピリン療法
アスピリン+へパリン療法
アスピリン+へパリン療法
  
凝固因子異常 プロテインS
プロテインC
第XII因子
アスピリン療法が基本
死産や後期流産の既往があれば
アスピリン療法+へパリン療法
免疫異常 NK活性(自費)
Th1/Th2比(自費)
ステロイドホルモン、漢方療法
ストレス 問 診 心療内科
薬物(漢方薬)
治療成績

<アスピリン療法>
妊娠初期から妊娠36週まで、小児用バファリンかバイアスピリンを毎日1錠内服してもらっています。
抗リン脂質抗体症候群の比較的軽症の人が対象となります。

<アスピリン+ヘパリン療法>
抗リン脂質抗体症候群や凝固因子異常例での治療の主体を占める治療法です。
妊娠初期からヘパリンを朝と晩に1日2回皮下注射し、分娩直前まで続けます。この方法とアスピリン内服を同時に行います(アスピリン内服は妊娠36週まで)。
朝晩の注射で大変ですが、治療成績が最も良いので欧米ではこの方法が一番使われています。2012年1月よりヘパリン在宅自己注射が保険で認められましたので、患者さんの負担がずい分減りました。

<ステロイドホルモン+漢方療法>
NK活性を測定して42%以上あった場合、次回妊娠での流産率は約70%です(当科成績)。亢進したNK活性を低下させるため、当科ではプレドニンというお薬を毎日1錠~2錠服用してもらっています。漢方薬も併用しています。NK活性が低下したら妊娠してもらっています。妊娠の10週まで薬を使用して、あとは自然経過で良好な治療成績を得ています。

おわりに
不育症の専門医が少ないため、各医療機関で検査が異なっていたり、治療法も正しい治療が行われていないのが現状です。
ぜひあきらめずに、当科にご相談ください。