教授の挨拶

-全身を統合して診療できる医師を育成し、分野を越えた明日の医学を切り拓く-

教育

複数の内科の分野を扱う第一内科の特色を生かして、専門分野で深い知識や技術を備えた専門医の育成だけでなく「全身疾患を総合的に診療できる内科医の育成」に努めたいと考えております。一人一人が独立したときに全国津々浦々どこに行っても通用するような全身の疾患を診られる内科医の育成に努めます。このことは臨床的に優れた医師を育てていくばかりでなく、将来研究を志した場合にも分野の枠を越えた新しい内科学を切り開いていく原動力となると信ずるからであります。

第一内科は、糖尿病・内分泌、呼吸器疾患(肺癌、喘息、慢性炎症性肺疾患・肺炎)、免疫・膠原病を担当し、全身に病変を有する疾患を扱っているのが特徴です。慢性疾患としての管理も学びながら、急性の合併症(肺炎や急性呼吸不全、糖尿病による昏睡による救急入院など)の症例も多く、内科救急の初歩も学ぶことができます。医師として総合的な洞察力を必要とする「意識障害」や考える内科学の頂点にある「不明熱」の入院も多く、受持医の内科医としての実力が磨かれる環境にあります。さらに気管支鏡などの手技も学べ、自分で直接最終診断をしたい方のためにも満足して頂けます。

どんな医師にもその医師の方向を決めることになった症例があります。急性期から慢性期にわたる豊富な全身性の疾患症例を、一例一例丁寧に診療することにより「自分の一生を決めた一例」への出会いを助けたいと思います。この経験が将来、新しい未来への医学を切り拓く糧となっていくと信じます。

前期研修

内科学会の新専門医制度は、全身を診療できる総合内科医の育成を目指したもので、これまで私どもが目指してきたのと同じ方向にあります。私どもは、独自のプログラムにより、前期研修の3ヶ月の間に糖尿病・内分泌・呼吸器疾患・リウマチ・膠原病の各分野で、初期研修の医師として必要とされる症例を確実に経験していただくことで、基礎知識・基礎手技の習得が十分になされるよう指導しております。いずれの症例も全身の臓器に目を配りながら診断や治療方針を決めることが要求され、初期研修を学ぶ内科としては最適の内科であると考えております。例えば、症例に即したインスリンの使い方、初期肺がんを見落とさない胸部X線の読み方の指導、重症肺炎患者の治療、免疫・膠原病および不明熱患者へのアプローチなどにつき詳しく指導しております。

また肺炎などの感染症の緊急入院の症例も受け持つことが可能で、内科医としてのプライマリーケア疾患も多く経験できます。このような環境を活かして、研修医の皆さまにできるだけ多くの分野の症例を経験していただくことにより、「全身を診療できる医師」の育成に努めております。また研修医の先生方の学会発表にも力を入れており、3ヶ月の研修期間に受け持った症例の中から少なくとも一例の学会発表を皆様に経験していただくよう努力しております。病棟には、研修医の教育を専任とする経験豊かなスタッフを配置し、初期・後期研修が効率よく最大の効果があげられるよう充実を図っております。

後期研修から専門医へ

後期研修医の先生方には、第一内科の病棟のみならず、県内の病院や関東圏、関西圏での総合内科研修により全身を診療できる医師の育成を目標にプログラムが組み込まれ、無理なく新内科専門医資格の申請ができるようなプログラムになっております。

全身に病変がある疾患や不明熱・感染症などの疾患を適切に診療できるよう一般内科医としてのスキルをさらに磨いてもらいます。希望により気管支鏡、甲状腺エコーなどの手技も学べます。また毎朝、病棟医による当番制でone point lessonも開催しており、日頃の診療から一人一人が学んだことを発表し、目指す医療を共有しております。定期的にヒヤリ・ハットの事例や医療事故などについても症例を通しての「リスクマネジメント教育」を行っております。

新内科専門医の受験資格を満たした方には、さらに専門分野の疾患を中心に勉強して頂きます。糖尿病・内分泌、呼吸器、リウマチ・膠原病の専門分野カンファレンスが定期的に開催されております。各疾患グループの独自のプログラムにより効率よく専門医を取得できるコースが設けられているのが特徴です。県内関連病院での研修も含め、各疾患の専門医になるための必須の症例を経験して頂くばかりでなく、興味深い症例に関する発表も経験して頂きます。第一内科の診療を常に最先端の状態におく仕組みの一つです。専門医コースには、国内留学制度があり、病棟の医師が各自、目標をもって国内のトップレベルの専門施設で研修しています。

常に全身を診療するという態度により身に付く内科全体の知識と経験と専門分野における技術と知識がバランスよく身に付いていくのも第一内科の特色であります。専門分野だけでなく幅広く内科学・医学の全領域に渡って知識を身につけたい、手技のマスターだけではなく総合的な内科学・医学を身につけたい、と考えておられる方には最適の内科であります。

この様な指導のもとに、常に患者様の立場に立って考えることのできる人間愛(Humanity)に満ちた医師の育成を基本に、日進月歩の医学の知識(Science)と技術(Art)を十分身につけると同時に、何よりも明日の医学を開拓するといった高い志(Ambition)をもつ医師を育成したいと思います。

診療

富山県内で医学部を擁する唯一の大学の附属病院として富山県民約110万人の中核病院となるべく、最新の研究から得られた病態の理解とともに大規模研究に基づいたエビデンスや学会のガイドラインに基づいた診療を目指し、診療レベルの向上に努めております。

糖尿病・内分泌疾患

糖尿病は近年急速に増加しております。放置しておくと、網膜症・腎症・神経障害などの細小血管合併症や、心筋梗塞や脳血管障害などの大血管合併症を発症し「生活の質」を著しく損ないます。
糖尿病治療の第一歩は、それぞれの患者さんが抱える生活習慣上の問題点を明らかにし、それを患者さん自身に気づかせることにあります。これは一見すると当たり前で簡単なことのようですが、実は奥の深い問題であります。
私どもは常に、医師と患者が一体となって問題解決に向けて取り組んでおり、このため教育入院の充実に努めてまいりました。
例えば、血糖値・体重が改善していく様子をグラフ化し、食事療法・運動療法の効果を視覚的に理解していただくなどの工夫をしております。
さらに治療選択に関しては、最適治療選択のインデックス(CPI=空腹時CPR÷血糖値(mg/dl)×100))を用いて、インスリン治療導入の是非を判断し、適切な薬物療法を実践しております。

呼吸器

呼吸器内科の分野は幅が広く、腫瘍、炎症、アレルギー、感染症とほとんどの病気の本質が凝縮されています。その研修は胸部X線、CTの読影に始まり、気管支鏡による診断、そしてエビデンスに基づいた治療を行うことに終結します。
死因第1位である肺癌は最も予後不良な悪性腫瘍のひとつで、有効な抗癌治療開発が求められています。近年では、新規抗癌剤の開発、分子標的治療薬の登場があり、ここ数年で肺癌治療成績も飛躍的に改善することが期待されます。
このため、当科では当院がん治療部とも協力をして、より高度な抗癌治療をマスターするための研修システムを導入しています。

リウマチ、膠原病

関節リウマチは炎症と障害の両面をもつ疾患であり、罹病期間が長くなるにつれてほとんどの患者は何らかの関節変形や関節可動域制限が生じます。それゆえ薬物療法、手術療法、リハビリテーションを含めたトータルマネージメントが必要になります。例えば、整形外科、和漢診療科、リハビリテーション部と連携し、リウマチの教育、検診入院を強力に推進しております。また当科では、リウマチ、膠原病疾患を対象とした多くの臨床試験(TNF阻害療法、IL-6受容体抗体療法など)に参加しており、難治性の患者様に最先端の治療を提供し、臓器障害の予防、疼痛緩和に成功しています。さらに、呼吸器グループの協力を得て、膠原病肺の診断と治療に最新の知見をもってハイレベルの診療を行っています。とくに、免疫抑制薬やステロイド薬の使用に際しては呼吸器専門医および内分泌、糖尿病専門医と連携し、よりきめ細かな副作用対策を行っております。  

以上、第一内科には各領域の専門家が多数そろっており、各領域とも患者様に最適の診療を行っております。いつでも患者様をご紹介いただければと存じます。常時最高の診療を行えるよう、万全の体制を整えていきたいと考えております。  

また関連病院や診療所、開業医の方との連携を密接にし、地域医療の向上に努めたいと考えております。大学病院と診療所とでは当然使命が異なります。患者様にとりましても、通常は自宅近くの診療所で診ていただき、高度な診断や治療が必要である場合には大学へ紹介していただくのがよろしいかと存じます。今後病診連携を益々緊密にすることによって、より良い医療を患者様へ提供していきたいと思います。

研究

日常の臨床を一例一例丁寧に診療していくことから湧き出た疑問や発想が臨床の教室で行われる研究の源です。先に述べましたが、初期研修、後期研修のなかで、「自分の方向性を決めた一例」に出会えるように、なぜと問いかけ、もっとよい治療はないかを考えるように日々の臨床の現場での指導に努めております。

「研究」というと日常の診療とかけ離れた世界のことのように考えられがちですが、臨床の現場の素朴な疑問が臨床の現場に役立つ研究に結びつくことがあります。以下のCペプチドインデックスがよい例です。

(1)2型糖尿病患者の治療選択のための指標の開発:Cペプチドインデックス(CPI)

コントロール不良の2型糖尿病患者を前にして、インスリン治療にすべきか経口薬で良好なコントロールを目指すべきかは迷うところであります。私どもは、これまでの臨床経験をまとめて、入院時のCペプチド値(CPR(ng/ml))を空腹時の血糖値(mg/dl)で割って100をかけた値(Cペプチドインデックス(CPI))を計算し、「0.8未満はインスリン治療、1.2以上は経口薬+食事療法・運動療法をすすめる」という治療選択の基準を報告しました。これは、自分たちの臨床経験をまとめて得られた知見であり、現在は日本中で広く使用されている指標となっております。一例一例を丁寧に考えながら診療した経験をまとめると、日常臨床に役立つ知見が得られるよい例と考えます。

(2)オーダーメード医療

2001年にヒトゲノムの塩基配列がほぼ決定されたのを契機に、2型糖尿病・リウマチ・喘息などのcommon diseaseにかかりやすい遺伝素因を捜し出す試みがなされてきました。この遺伝素因は、ヒト染色体約1,000塩基ごとに一個ずつ存在する一塩基多型(SNP)によって規定されていると考えられています。染色体ブロックを標識するTag SNPを用いて、2007年には欧米諸国から次々と原因遺伝子が報告されています。個々の患者様のSNP解析によって明らかにされた遺伝素因をもとに、今後病気がどのような経過を辿っていくのか、あるいは未発症の人にはどの位の発症のリスクがあるのか、どのようにすれば予防できるのかが分かって参ります。オーダーメード医療は、もう手の届くところまで来ております。

(3)分子病態に基づいた創薬の例

近年、医学の進歩により「病態に即した新しい治療法」が続々と開発されています。これらの中には臨床の場で活用されて目覚ましい効果をあげているものも少なくありません。糖尿病・メタボリックシンドロームの分野では、インスリン抵抗性の分子機構の研究を脂肪組織の炎症やマクロファージの面から、免疫・膠原病領域では、TNFαやIL-6などのサイトカインを標的とした生物学的製剤、肺癌領域では白金製剤をベースにした化学療法や上皮成長因子受容体(EGF受容体)拮抗薬が挙げられます。

当科では上記の治療薬を用いた先端医療を推進するととともに、研究の面では病気の本態を分子レベルで解明し、それらの分子が調節するパスウェイに働きかける新たな薬剤を見出すべく、病気の原因となる臓器や病変組織を採取して、トランスクリプトーム、プロテオーム、メタボロームに関する網羅的解析を行っていきます。また独自に開発した疾患モデル動物を使った解析などにより、発症の鍵となる新規の新しい分子を捜し出すことに力を入れていきます。医学は進歩したというものの、まだまだ治らない病気、未知の病態がたくさんあります。このような未知の現象を分子レベルでとらえ、その分子を標的として創薬を目指していきます。

これまで、呼吸器、免疫・膠原病、糖尿病・メタボ領域に共通な基礎研究のテーマとして「慢性炎症」ということを掲げてきましたが、最近では「腸内細菌叢」というテーマも各グループの共通のテーマとして研究をスタートしようとしております。

最後に

高齢化が急速に進行し、糖尿病・メタボリックシンドローム、肺癌・喘息・慢性炎症性肺疾患、リウマチなど関節疾患を含め、内科の各分野の枠をこえて複数の臓器に病変を有する患者が急増しております。第一内科での研修を通して、全身を統合的に診察できる医師を目指し、臨床経験に基づいた研究を志し、分野の枠を越えた新しい医療や医学の分野を切り拓く志をもった若い医師の参加を期待します。

いつでも気軽に、見学や説明会に参加して下さい。

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