消化器腫瘍内科
消化器領域における悪性疾患は、食道・胃・小腸・大腸がん、胆道・膵臓がん、GIST、原発不明がん等に対する薬物療法を中心とした診療と研究を行っており、対象疾患は多岐に渡ります。このため、病院全体の患者サポート部門である外来化学療法センターや緩和ケアセンターにおいても、当診療科は主要な役割を果たしています。
治療方針の決定にあたっては、診療科内でのカンファレンスの他、キャンサーボードにおいて、外科・放射線科・病理など他科スタッフとの連携を密にして、最適な治療を提供できる体制を整えています。消化器癌の診断、治療方針の決定、薬物療法を中心とした治療と、有害事象の管理、支持療法を一貫して行います。また、新規治療の開発に携わるため、日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)、西日本がん研究機構(WJOG)、北海道消化器癌化学療法研究会(HGCSG)などに所属しており、各がん腫における臨床試験や治験治療に積極的に参加しています。
これらの体制を維持し、常に最新の医療を実践していくために、がん薬物療法専門医の取得はもちろん、High volume centerへの留学、国内外の学会発表や論文作成、基礎研究等を通し、常に知識と技術を蓄積していく事を目指しています。
また平成30年度より、臨床腫瘍部を中心に、がんゲノム医療推進センターが立ち上がりました(。当施設はがんゲノム医療拠点病院であり、正確な情報を提供した上で、希望された方には、積極的に遺伝子パネル検査を受けて頂き、エキスパートパネルと呼ばれる検討会を通して、遺伝子異常に基づいた治療提供を行っています。
腫瘍内科というと、デスクワークが多い印象をもたれる方も多いと思います。しかし、消化器がんに関しては、内視鏡診断、内視鏡を用いた薬物療法の効果判定の他、吐血・下血の内視鏡処置、消化管閉塞・閉塞性黄疸に対する処置・ステント留置術など、緊急処置が多い事も特徴です。これらの緊急の処置もグループで対応する事を基本としています。
当診療科では、化学療法や化学放射線療法を積極的に行っています。
切除可能な食道がんの治療は、術前化学療法+外科切除が標準治療です。しかし、切除可能な食道がんと診断されても、高齢・術後のQOL低下・全身状態を理由に手術を希望されない方もいます。化学放射線療法は、抗がん剤と放射線治療を同時に行うことで食道がんを治療する方法で、体への負担が外科手術に比べて軽く、食道の機能を温存することができます。特に化学療法が奏効した症例では、外科切除ではなく化学放射線療法でも十分に根治を期待できます(図)。
切除可能な局所進行食道がんにおいては、術前治療がドセタキセル、シスプラチン、5-FUの3剤併用療法が新たな標準治療となりました。また、切除不能な食道がんにおいては、当診療科も参加した第Ⅲ相臨床試験により、チェックポイント阻害剤の有用性が明らかとなり、標準治療が大きく変わり、治療成績も向上しています。
胃がんでは、2021年12月よりHER2陰性胃がんに対して、一次治療におけるチェックポイント阻害剤が保険適応となり、多くの方に導入してきました(図)。3次治療以降の使用では、長期著効例を経験する一方で、免疫関連有害事象や増悪例も経験しており、これらの経験が生かされるものと思います。また、胃がんの発症年齢が高齢化していることから、高齢者胃がんに対する治療開発や、腹膜播種に対する治療開発に関連した臨床研究に参画しています。
新たな標準治療への関わりとして、TAS102+ラムシルマブ試験に参加し、後方治療の充実にも取り組んでいます(外部リンク)。
また、当診療科では、国立がん研究センター研究所との共同研究として、胃の発がん過程におけるエピジェネティクス異常の網羅的解析を行い、背景胃粘膜のメチル化異常が発がんリスクを反映することを報告してきました(外部リンク)。臨床応用に向けて、胃粘膜に蓄積したDNAメチル化異常を定量化して胃がんの発症を予測するコホート研究を行っています。
昨今の大腸がんにおける遺伝子解析により、大腸の左側と右側で大腸がんの成り立ちが異なる事が明らかとなり、各種ガイドラインの治療方針に反映されています。また、奏効割合の高いFOLFOXIRI療法が大腸がん治療に導入され、日常臨床での使用も定着しました。しかし、これらの化学療法においては、蓄積毒性の問題もあります。富山県では様々な漢方薬が使用されますが、抗がん剤治療による神経毒性に対する支持療法として、漢方薬の有用性を検証する臨床試験を行い、日常臨床でも応用しています。
最近では、MSI-Highの大腸がんに対するチェックポイント阻害剤の治療成績が多数報告されており、適応症例に使用を始めています。同時にリンチ症候群に対する遺伝外来については、院内のみならず県内各医療機関との連携を強化していく必要があります。また、当施設は消化器がんの遺伝子スクリーニングネットワークである、GI-SCREEN-JAPAN(外部リンク)の参加施設です。これにより、希少な遺伝子異常を持つ大腸がんを見つけ出すことで、新たな治療薬の開発に積極的に携わっています。
また、血液の中に循環する腫瘍由来のDNAを採血検査で調べることができるようになってきています。この手法を用いて、大腸がんの術後に抗がん剤治療を行うべきか否かを調べる研究としてCIRCULATE-Japan研究(外部リンク)が開始されています。当施設はこの研究の参加し、大腸がん術後の新たな治療戦略を世界に発信していくことにも積極的に携わっています。
当院には、が開設され、
同センタースタッフを主体とした肝胆膵キャンサーボードで議論された上で治療方針が決定されています。
現在、膵臓がんに対する化学療法としては、5FU、イリノテカン、オキサリプラチンという注射薬を併用するFOLFIRINOX療法、ゲムシタビンとナブパクリタキセルという注射薬の併用療法、S-1という内服療法などが行われています。
その中でFOLFIRINOX療法は効果も高い一方で、副作用も強い特徴がありますが、当グループでは、このFOLFIRINOX療法を適切な量に調整して投与しても、効果と安全性が保たれることを調べる試験にも参加するなど、安全で有効に治療が行える体制を整えています。
また国内トップの臨床研究グループである、日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)の肝胆膵グループの正式メンバーとして新規治療開発にも協力しています。
支持療法とは、癌に伴う症状や治療による副作用を軽減する目的で行われる予防策や治療を指します。最近の消化器癌の薬物療法は、多剤を併用する治療強度の強い薬物療法ですので、適切に支持療法を行うこと必須と言えます。
薬物療法の副作用は、代表的なものとして、吐き気や便秘、倦怠感、口内炎、下痢などの消化器症状が挙げられます。また、分子標的薬剤の副作用には、血栓塞栓症や消化管穿孔があり、免疫チェックポイント阻害剤の副作用の中には、腸炎や肝機能障害などが知られており、これらの管理には消化器内科医、ひいては内科医としての、幅広い知識や経験が求められています。
これらの副作用にどう対応するのかという観点からの臨床研究は極めて少ない現状であり、これらの臨床研究に積極的に参画しています。更に、毒性はなぜ起こるのか、といった発症機序も明らかにされていない点が多く、副作用の発症に関する基礎的研究にも、患者さんの唾液や糞便など検体を用いた菌叢解析の視点から取り組んでいます。